セミリンガルの恐怖4  1) セミリンガルの恐怖

バイリンガルに育てなければ! TB020

長男が2歳半になった頃、当時イギリスに住んでいた私は「子供をバイリンガルに育てたいという理想」と「実際の現実の難しさ」の板挟みとなって、苦しんでいました。私の心の中では、「この子の言葉の発達がうまく行っていないという現実を潔く認めて、取り合えずは言葉を一つに絞り、まずは母国語を与えてやるべきなのではないか」という気持ちと、「いや、そんな事をしたら大変な事になる。」という恐怖感が、互いに激しく戦っていたのです。

「バイリンガルに育てるのがいいお母さん」という「固定観念」を持っていた私にとって、「バイリンガル教育を諦める」などという選択肢は「最高の屈辱」であり、「自分自身の挫折」であり、存在してはいけない事でした。しかし、その一方で、大学の授業で教えられた「セミリンガル」という言葉への恐怖心も私の中で同時に育っていました。確かに世の中には何ヶ国語でも簡単にできるようになる子供もいるものです。でも、一カ国語だけで育てていたって「言葉の学校」に通わないと満足に言葉ができるようにならない子供もいるものなのです。

こうして私なりに色々と苦しんだ末、「この子にとって今大切なのは年齢相応の母国語を与えてあげる事である。」という結論に達した私は、その日から長男に英語で話しかける事にしました。そして、それを実行してみて、改めて、この「固定観念」は「私一人の勝手な妄想」だったのではなく、実際に世間もそう思っていて、「そうしない母親を世間は厳しく裁くものなのだ」という現実の厳しさを知ったのでした。

私が長男の言葉を英語だけに絞った事を夫の姉が聞きつけるや否や、義姉は、「母語とは母の言葉であり、あなたの言葉は日本語なのだから、あなたは子供を日本語で育てるべきだ」と言って、私に強く抗議しました。私は「ヨーロッパ人が起源を同じくする似たような言語を多数習得する事」と、「まったく言語形態の異なる日本語と併用する事」は根本的に違う事である事をいくら義姉に説明しても、義姉はまったく聞く耳を持ちませんでした。

またある時は、たまたま電車で向かい合わせたスペイン人が突然「あなたが日本人なら日本語で子供を育てるべきだ。」と言い出し、私に説教を始めました。

ご近所に住んでいた日本人の知り合いのお嬢さんは、当時9歳位だったでしょうか。日本人家庭ですが、駐在でイギリスに来たので、彼女は現地の学校に通い、言葉ができない事で辛い思いをしていつも泣いていたのでした。それでも、「バイリンガルになる事が大切なんだから」と親から言われ、子供ながら辛い事もじっと我慢して頑張っていた彼女でした。

そんな彼女が我が家に遊びに来ました。長男と遊んでくれていた彼女は、しばらくすると長男が日本語ができない事に気がつきました。私が「ごめんね。Aちゃんは日本語ができないのよ。」と言うと、彼女は顔面蒼白となり、「えっ!で、でも、子供をバイリンガルに育てなければ!」と私に向かって、そう叫んだのでした。


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