ダラダラ中につきカメ更新 感想など、ちょろっとでも書き込んでいただけましたら泣いて喜びます🎵

2021/2/13  0:50

ジョージア先生の長い長い夜5  小説


翌朝、ゼインは一連の騒ぎについて部下から報告を受けていた。

「一週間の謹慎?」

タリウスがクリフ=ドーンの処分について言及したときのことだ。ゼインは唖然として、部下の言葉をそのまま返した。

「その一週間も、出来れば訓練には出させたいと考えています」

「如何に脅されていたとは言え、窃盗の実行犯だ。それではいくらなんでも甘過ぎる」

冗談じゃないと即座に却下するが、部下もまた引かなかった。

「確かに先生のおっしゃる通りだとは思いますが、元を正せば、ウィルキンスの愚行に気付けなかった私の落ち度です。昨夜私からきつく指導し、本人も深く反省しています。どうか…」

「ジョージア」

平身低頭する部下を前に、ゼインはため息を吐いた。

「全く君は人が良いと言うか何と言うか。そんなことでは、いつぞや君にやった鬼を、返上してもらうことになるよ」

ほんの一瞬、部下の瞳孔が開くのをゼインは見逃さなかった。

「今、惜しそうな顔をしたね。いくら口ではいらないいらないと言っても、一度手に入れたものを取り上げられるのは、やはり不快に感じるか」

「いえ、そう言うわけでは。そもそも私は、オニに向いていないのかもしれません」

「私は向いていると?」

「そうですね、少なくとも私よりかは」

同じ質問を部下の教え子、例えばキール=ダルトンあたりにすれば、恐らくは同じことを答えるだろう。ゼインは堪えきれずにクスリと笑った。

「まあ良い。こちらの予科生については君に任せる。問題は、姦しい娘たちをどうやって黙らせるかだ」

「それならば、私が…」

「いいか、ジョージア。この世の中に、婦女子のおしゃべりほど恐ろしいものはない」

ゼインはそう言って、身震いした。


数日後、主任教官の執務室に黄色い歓声が上がった。

「まさかこんなに早くまたお会いできるなんて、感激です!」

「そう?」

ミゼット=ミルズである。今日は非番らしく、略式の常装に、長い黒髪は下ろしたままだ。

「本当はこちらからお伺いしたいと思っていたんです。でも、ジョージア先生が…」

「ジョージア教官がどうかした?」

「いえ、お会い出来たので、もう結構です。それより、今日はどうされたんですか」

「お見舞いよ」

「お見舞い、ですか?」

アグネスとイサベルが互いに顔を見合わせた。

「とんでもないことに巻き込まれたのでしょう。イサベル、風邪はもう良いの?」

「はい。ノーウッド先生から万病に効く薬をいただいたので、もうすっかり」

「何よそれ。怪しすぎる。本当に大丈夫なの?」

「だ、大丈夫ではないのですか?!」

「え?ま、まあ病は気からと言うし、元気になったのなら何よりよ」

不安げに顔色を変える少女を前に、ミゼットが慌てて執り成した。

「そんなことより、二人に受け取ってもらいたいものがあるのよ。気に入ってもらえると良いけれど」

言いながら、ミゼットが手のひらほどのサイズの包みを二つ、テーブルに乗せた。二人は、頭にはてなマークを浮かべながら包みを開いた。

「え?」

「あ!」

それから、またしても顔を見合わせた。どちらも頬を上気させている。

「どこの馬の骨ともわからない男に触られたパンツなんて、気持ち悪くて使えないでしょう。そうかと言って、おいそれと買いには出られないでしょうし。言っておくけど、最高級品よ」

「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」

満面の笑みで包みを覗き込む後輩たちに、ミゼットもまた上機嫌である。

「良いのよ、私も昔同じようなことをされたことがあるから、気持ちはわかるもの。でも、もう済んだ話。いろいろあったけれど、私は今でもここが好きだし、卒校したことを誇りに思ってる」

二人はミゼットが話すのをコクコクと頷きながら聞いていた。

「だから、妙な噂が立つのは本意ではないの。嫌な思いをさせた上でこんなことを言うのは心苦しいのだけど、今回のことは墓場まで持っていってくれない?」

「それはもちろん、かまいません」

「私もそれで大丈夫です」

いくらこちらに落ち度がないとは言え、自分たちにとっても不名誉な話である。その上犯人は捕まり、相応の処分を受けたと聞けば、あえて吹聴するような話ではない。

「良かった!下着が足らなかったらいくらでも買ってあげるから、遠慮しないで言って頂戴」

ミゼットはとびきりの笑顔を少女たちに向け、席を立った。


「そんな顔をするな」

「私は別に…」

一方、こちらは執務室前の廊下である。

「名誉のためだ。致し方ない。だいたいいくらでも買ってやるのは妻ではなく、私だ」

ぼやきが止まらない上官と、いつもに増して仏頂面の部下が扉の前で聞き耳を立てていた。

「あ、そうそう。ノーウッド先生には気を付けなさい」

そろそろ引き上げようというところで、俄に気になる台詞が耳に入った。

「どさくさに紛れて、平気な顔してお尻を触ってきたりするから」

「えぇ?!」

「ホントですか!!」

たちまち少女たちの目が点になる。

「やさしそうに見えて一番厄介だから、絶対に気を許しちゃだめよ。あの人はね、中央士官の闇よ」

良いわね、そう念押ししてミゼットは扉に手を掛けた。外にいた男ふたりが慌てて廊下に身を潜める。

「あの老害が…」

沸々と静かに沸騰する上官から、タリウスはそっと離れた。これ以上の厄介事はもう御免である。


10

2021/2/9  23:57

ジョージア先生の長い長い夜4  小説

「起床!!これより点検を行う。全員、今いる場所を一歩も動くな」

深夜零時きっかり、教官の号令で少年たちはベッドから飛び起きた。言うまでもなく、全員が寝間着姿に素足である。

彼、アーサー=ウィルキンスは颯爽と身体を起こし、誰よりも早くベッド脇に起立した。どの引き出しを開けられようと何ら問題ない。彼は余裕の表情で、カツカツと近付いてくる長靴の音を聞いていた。

「毛布を退かせ」

「え?」

ランタンの灯りをもろに見返し、目が眩んだ。

「早くしろ」

教官が苛立った声を発してもなお、アーサーはその場を動くことが出来ない。業を煮やした教官が、勢い良く毛布を剥ぐのを呆然と見ているだけだった。

「これは何だ」

ベッドの足側のほうから布の塊のようなものが床へ落ちる。

「き、着替えです。洗濯に出すのを失念してしまいました」

「そんなものは予科生にでもやらせれば良かっただろう」

アーサーは、教官が意地悪く囁くのを背筋が凍るおもいで聞いていた。

「随分と汚れているな。ウィルキンス、お前自身も」

教官は薄汚れた寝間着に明かりを近付け、続いて少年自身を照らした。彼の足は泥に汚れ、床にも黒い足跡がいくつも付いていた。

「首筋に火傷があることと何か関係が?」

「っ!」

アーサーが咄嗟に首もとに手をやる。だが、すぐにハッとしてその手を離した。

「自分は何も…」

「ドーンが吐いた」

反射的に否定しかけるも、続く言葉に声を失う。身体がさっと冷たくなるのがわかった。アーサーは両目をつぶり、それから吐息した。

「観念して教官室に来い」

ふんと小さく笑い、彼は裸足のまま教官に従った。

そうして一歩部屋から出ると、少年は教官を追い抜き、そのまま全速力で廊下を直進した。

「待て!!」

タリウスが叫ぶ。彼の目には、廊下の行き止まりに嵌め込まれた大きな窓ガラスが映っていた。

「やめろ!ウィルキンス!!」

このまま突っ込まれたら間に合わない。心臓が音を立てた。

「うわあぁあ!」

そのとき、アーサーが何かに躓き、勢い良く床に転倒した。瞬時に起き上がり先へ進もうとするも、何者かに行く手を阻まれる。無我夢中で体当たりを繰り返すが相手は一向に怯まなかった。

「老いぼれと思うて侮ったか」

「ノーウッド先生?!」

タリウスが声を上げる。老教官には、本科生の点検の間、教官室で留守を預かってもらう手筈になっていた。

「確かにだいぶガタはきているかもしれん。それでも、お前のような奴には倒されんよ」

「いっ!!」

老教官はアーサーの腕を掴み、後ろ手に捻り上げた。少年はもはや完全に戦意を喪失していた。

「ジョージア教官」

「は!」

「この馬鹿者を下に連れていけ」

唖然とする若き教官に、老教官は乱暴に馬鹿者を引き渡した。

「何を見ておる。点検は終いだ。全員直ちにベッドに入れ!就寝!!」

老教官が吠え、それまでことの成り行きを見守っていた少年たちが、蜘蛛の子を散らすよう一斉に毛布に潜り込んだ。

「ぬかったな」

すれ違い様、老教官の囁き声が耳元に届く。他でもない。かつての師を侮ったのは彼自身だ。

「申し訳ございません」

「ま、儂が止めんでもそいつには飛び降りる勇気なんぞなかったと思うが、一応な」

そう言って、老教官は些か強めにかつての教え子の尻をはたいた。


教官室には先客がいた。元は壁に向かって起立していたのだろう。無遠慮に開かれた扉に、クリフ=ドーンは顔だけを向けた。

ひどく泣き腫らした瞳が見たのは、諸悪の根元とも言える先輩の情けない姿だった。先輩は裸足に寝間着姿で、なおかつ教官によって自由を奪われていた。

「今回の一件は、明日の朝、統括とミルズ先生に報告する。お前にはそれ相応の処分が下されるだろう」

「退校になるんじゃ…」

「そんなことは俺の一存では決められない」

話が違うとばかりにクリフが反論し掛けるが、教官がばっさりと切り捨てる。呆然とするクリフをそのままに、教官は更に続けた。

「それよりもだ。貴様よくも予科生に手を出してくれたな。ドーンだけではない。大方、軽々しく父上の名前を口にして、あることないこと言って脅してきたのだろう」

アーサーは答えない。

「お前のように性根の腐りきった奴には、たっぷり償いをしてもらうぞ」

「や、やめ…何を?!」

教官は執務机の椅子を引き、どっかりと腰を下ろした。そして、暴れるアーサーを膝の上に横たえ、おもむろに寝間着の裾をまくった。

「父上に言いたければ言えば良い。下級生を苛めたお仕置きに、ジョージア先生に死ぬほど尻を叩かれたと、言えるものなら言ってみろ」

「いっ…!」

いつの間にか下着まで下ろされ、剥き出しになった尻に容赦ない平手が弾けた。

教官は、その後もバチンバチンと続けざまに平手を落とした。彼はこの仕置きに関して、余計な手心を加えるつもりはなかった。

本科生への正式な罰は、明朝以降、主任教官が自らの手で下すことになる。それを見越して自分は鞭の使用を控えた。配慮は充分過ぎるほどした。

「うぅ!うあぁっ!!」

続けて同じところを狙い撃ちにすると、アーサーが耐え切れずに、身をよじって暴れた。もはやプライドをかなぐり捨ててでもこの痛みから逃れたいのだろう。

「暴れるな!見苦しい。自分が何をしたのか、よく考えろ」

タリウスは少年を叱りつけ、なおもきつく尻を叩いた。

アーサーを個別に指導するのはこれが初めてだった。彼の成績は常に首位で、ことにその身体的な能力の高さにおいては、目を見張るものがあった。

故に、つい先程、三階の窓から壁伝いに、制服を捨てに下りたと聞いても、彼ならば可能だとあっさり納得できたほどだ。

また、素行は決して良いとは言えないまでも、表向きに問題を起こすことはまれだった。

タリウスとしても、優等生の仮面の下に隠された狡猾な裏の顔に、気付きつつあったが、なかなか尻尾を出さないため、今日まで叱るチャンスがなかった。

「暴れるなと言っただろう!」

アーサーは、懲りずに膝から下りようとなおも足掻いていた。タリウスは、このやや大柄の少年をもう一度しっかり抱え直すと、暴れる足を自分の足で挟み、その動きを封じた。

「ドーン!」

「は、はい?!」

クリフは突然名を呼ばれ、飛び上がらんばかりに姿勢を正した。

「よく見ていろ。これがいじめっこの末路だ」

「ハイ…」

つい数時間前まで恐怖の対象でしかなかった先輩が、今は子供のように尻を叩かれている。自分が真に恐れるべきは、教官をおいて他にない。クリフは今更ながらそう思い知るのだった。


とりあえず大筋はおしまい。あとは、エピローグとオマケをいくつか書く予定です。クリフについてもそっちで回収します。

相変わらず詰めが甘いのがジョージアせんせ。
12

2021/2/7  22:22

ジョージア先生の長い長い夜3  小説

「整列!」

一通り聴取が済むと、タリウスは再び予科生をホールに集めた。疑わしい者はいるが、決定的な証拠がない。これ以上予科生を詰めたところで、恐らく成果は上がらないだろう。

「深夜零時、総点検を行う。そこで何らかの物証が出れば、問答無用で退校処分とする。手を貸した者、嘘の証言をして庇い立てをした者も同様だ」

退校、その言葉のもつ重みに予科生たちは動揺を隠せない。それでなくとも、いつもならとうに休んでいる時間である。どの顔にも疲労と眠気が見てとれた。

「ただし、これより零時までに、過ちを犯した者が自ら名乗り出れば、温情を掛ける。監督生二人はこの場に残れ。他の者は一旦解散とする」

「ジョージア先生」

そのとき、入口から遠慮がちに名前を呼ばれた。

「ラサーク、どうした」

「お忙しいところすみません。ですが、イサベルが…」

タリウスは監督生を一旦待たせ、アグネスを呼び寄せた。

「オーデンがどうかしたのか」

「ひどく寒がっていて、もし出来たらお湯をいただきたいのですが…」

「炊事場を使え。しばらくは教官室にいるから何かあったら来い」

それからアグネスを下がらせ、今度は監督生二人に向き直った。

本科生に上がると週番がなくなり、代わりに監督生が一二名選ばれる。監督生には成績優秀で品行方正な者がなることが多く、普段から教官を補佐することが求められていた。

「消灯点呼の前、本科生に何か変わった動きはなかったか」

「特にありませんが、そう言えば…。大したことではないかもしれませんが」

「何だ」

「点呼の前に、上で予科生を見ました」

「予科生?誰だ」

本科生の居室は、予科生の居室の上に位置する。先程の聴取では、誰もそんなことは言っていなかった。

「すみません、名前までは。ですが、ウィルキンスが呼びつけていました」

ウィルキンスはいわゆる二世である。

「あいつの人使いが荒いのはいつものことですが、まさか洗濯までさせているとは思いませんでした」

「洗濯?」

上級生が下級生を使役すること自体は、特段禁じられていない。下級生は先輩から言いつかった雑用をこなす見返りとして、後ろ楯を得ると共に、時として個人指導をしてもらえることもある。両者の利害が一致している限り、教官が口を挟むことはなかった。

「はい。制服を届けさせていました。ウィルキンスに聞いてみますか」

「いや、良い。それよりこんなことが明るみに出たら、中央の名は地に落ちる。この件は一切他言無用だ。騒ぎについて誰かに聞かれても何も答えるな。だが、もししつこく食い下がる者がいたら、そのときはこう答えろ」

そこで、教官は声を極限まで殺した。


タリウスが雑多な仕事を片付け、教官室で待機しているときだった。軽い靴音が駆け足でこちらに近付いて来る。今度は何事かと訝しんでいると、勢い良く扉が開かれた。

「せんせい!!」

少女がひとり息急き切って飛び込んで来た。彼女はまるでお化けでも見たような顔をしていた。

「許可も得ずに入ってくるな。一体どうした」

「せんせい!せんせい!せんせい!」

アグネスが荒い息で駆け寄ってくる。目には涙を浮かべ、身体をひどく震わせていた。

「どうした」

「せんせい!!」

アグネスは教官に飛び付き、両手で胸の辺りを掴んだ。

「こら!離せ」

予想外の事態に、タリウスは驚いて振り払おうとするが、強くかじりつかれてすぐには離れない。半狂乱になって泣いているアグネスを見るに、余程怖い目に遭ったのだろう。これが年齢相応の娘の反応なのかもしれないが、ここは士官学校であり、彼女は士官候補生である。

「しっかりしろ!!」

腹の底から怒鳴ると、アグネスがビクっと身を縮め、顔だけをこちらに向けた。

「アグネス=ラサーク、お前は士官になるんだろう。一度任務に着けば、危険なことも恐ろしい目に遭うこともごまんとある。その度に取り乱してどうする。わかっていて自分で選んだ道だろう。違うか!」

「す、みません。失礼…しました!」

アグネスは教官から手を離し、指の腹で目頭を押さえた。

「そうだ。それで良い」

タリウスは教え子の背に手を回し、トントンと軽く叩いた。アグネスが驚いて目を上げると、教官は一瞬口許を緩めた。そして、咳払いをひとつし、襟を正した。少女の顔に赤みが戻る。

「それで、何があった?」

「炊事場に、泥棒が、いました」

アグネスがこちらを見上げてくる。その目は真剣そのものである。

「泥棒だと?」

「炊事場にお湯を取りに行ったら、窓ガラスに人影のようなものが映っていて、もうその時点で怖くて。そうしたら、その影が勝手口から入って来て、入口でぶつかられて…」

アグネスが肩で息をした。

「それで?ラサーク、お前はどうしたんだ」

「持っていたお湯で反撃しました」

教官の目が瞬く。どうやら彼女は、いたずらに賊に恐怖していたわけではなかったようだ。

「多分、そこそこお湯が掛かったと思います。結構熱がって逃げて行ったので」

「声を聞いたのか。どんな奴だ」

「若い男だと思いますが、知らない声でした。ですから、多分泥棒だと…」

「確かに泥棒には違いない。ラサーク、よくやった」

何だかんだで彼女は賊を撃退したのだ。着替え泥棒に関しても、お陰で疑惑が確証に変りつつあった。

「先生、あの、それでですね…」

「何だ」

「今のでお湯を使ってしまって、もう一度お湯を取りに行きたいのですが、ひとりでは怖くて。すみませんが一緒に来ていただけませんか」

「馬鹿を言うな。誰にものを頼んでいる」

「で、でも!本当に怖くて…」

ひとりでそれだけ立ち回れて、一体何を怖がると言うのか。タリウスは呆れたが、ここはひとつ彼女の頑張りを労うことにする。

「わかった。お前はオーデンのところにいろ。代わりに俺が取りに行く。ついでに下で確認したいことがある」

タリウスは道すがら、怖がるアグネスを医務室まで送った。


拍手&拍手コメントありがとうございます!ネタバレを回避するため、今回に限りお返事は完結してからまとめて差し上げます。

読後のひとことツイート、いつも楽しく読ませていただいています。また、とても励みになります♪


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2021/2/7  1:50

ジョージア先生の長い長い夜2  小説

教官の放つただならぬ気配に、その晩の消灯点呼は、まさに一触即発だった。

タリウスとの付き合いが長い上級生にはわかっているのだ。怒りに任せて怒鳴り散らしている分にはまだ良い。真に恐ろしいのは、鬼教官が口を閉ざしたときである。

「連絡は以上だ。予科生はこの場に残れ。監督生二人も同様だ」

本科生が静かに退出していく。ひりついた空気から早々に解放され、どの顔にも安堵が窺えた。


「これが客人に対するお前たちのもてなしか」

上級生の姿が見えなくなると、教官は吐き捨てるように言った。彼の視線は予科生の最後尾に注がれている。昨日までその場所には北部士官学校から来た予科生二名がいた。

「昨日はラサーク、それからつい今し方、オーデンの着替えが盗まれた」

信じ難い台詞に、それまで沈黙していた予科生たちがざわつき始めた。監督生二人も互いに顔を見合わせる。

「黙れ!!」

だが、教官の怒号に、たちまち水を打ったように静まり返る。

「オーデンは風呂上がりに着替えを奪われ、風邪を引いて寝込んでいる。もしもお前たちに一欠片(ひとかけら)でも良心が残っているなら、やった者は直ちに名乗り出ろ」

教官の刺すような視線に怯えながらも、少年たちは微動だにしない。

「ならば、これからひとりずつ事情を聞く。監督生はこの場に残り予科生を監視しろ。一切の私語を許さず、離席する際には必ずどちらかが付き添え。良いな」

従順な返事が二人分返された。


「該当の時間、お前はどこで何をしていた」

それから宣言どおり、予科生をひとりずつ教官室に呼んだ。

「資料室で課題をやっていました」

「お前はどの辺りにいた。書け」

タリウスは手元から紙を一枚つまみ上げると、少年のほうへ押し出した。紙は白紙だった。

「ここが入口だとして、この辺りです」

「他の奴は?それぞれいた位置に名前を書け」

「えーと、確か…」

少年は記憶を辿りながら、ぎこちない手付きで級友たちの名前を紙に落とし込んでいく。

「だいたいこんな感じだったと思います」

「わかった。顔を上げろ」

少年はペンをおいて、教官に向き直った。

「何か言いたいことはあるか」

「いいえ、ありません」

不安げにこちらを見返してくる少年を教官が一瞥する。

「良し、下がれ。次」

タリウスは少年を下がらせ、今度はまた別の少年と向かい合う。そして、先程と同じ質問をした。

「ノーウッド先生のお部屋にいました」

「そこで何を?」

「本を入れ過ぎたとかで、棚が壊れたから修理するよう言われ、直していました」

「先生はずっとお前と一緒にいたのか」

「いえ、先生はすぐに部屋から出られました」

「なら、途中で誰かと会ったか」

「いえ」

少年の声が小さくなる。自然と瞬きの回数が増えた。

「で、でもずっとノーウッド先生のところにいました。棚も確かに直っています。先生、自分は疑われているんでしょうか」

「今の時点では全員を疑っている」

「でも、自分は本当に…」

「お前が本当に潔白だと言うなら、堂々としていれば良い。他に何か言いたいことが?」

「いいえ」

少年は真っ向からこちらを見つめ返してきた。

「良し。次」

少年が席を立ち、入れ替わりにまた別の少年が入室して来る。

「該当の時間、お前はどこで何をしていた」

「自分の部屋にいました」

「他の者は?誰か部屋にいたか」

「チェイスとカヴァナーがいました」

「二人は何をしていた」

「チェイスは、確か課題をやっていて、カヴァナーは寝ていました」

「お前は?」

「え?」

少年がピクリと身を固くする。

「お前は何をしていた」

「何って、特に何も…何もしていませんでした」

「途中で誰か席を立ったか」

「わかりません」

「わからない?」

「ずっと見ていたわけでは、ないので」

少年の視線が忙しなく動き、定まらない。

「クリフ=ドーン、顔を上げろ。何か言うべきことはあるか」

少年の視線がキョロキョロと行きつ戻りつを繰り返し、最終的には教官から視線を逸らした。

「何も、ありません」

「もう良い。下がれ」

少年が一礼して踵を返した。

「ドーン、本当は誰がやったのか知っているのでは?」

「い、いえ。自分は何も…」

去り際に背中へ声を掛けると、やはり背中越しに返事が返された。

「失礼します」

クリフは一応こちらを振り返りはしたが、最後までその視線を捉えることは叶わなかった。タリウスが手元の名表に印を付けた。

「次」

ややあって、また別の少年が入室する。タリウスが同じ質問を繰り返す。

「資料室にいました」

「自分がいた場所を書け」

教官が自分の手元から紙をつまみ取り、少年の前に置いた。白紙を前に少年の動きが止まる。

「どうした。お前は資料室のどのあたりにいたんだ」

「覚えて、いません。いろいろなところにいたので、特にどこというわけでは」

「なら、他の者はどうだ」

「よく覚えて…」

「一人くらいは思い出せるだろう。誰がいた?そいつはどこで何をしていた」

少年は白紙に視線を落としたまま、動かない。

「………いませんでした」

「何?」

「すいませんでした!」

少年が立ち上がり、勢い良く頭を下げた。

「お前がやったのか」

「ち、違います!」

「ならば何故謝る!」

「ほ、本当は資料室にはいませんでした」

「どういうことだ!お前はどこで何をしていた!」

教官が机を叩いた。机上の筆記具がガシャンと音を立てる。

「自分の部屋にいました。けど、ひとりだったので、疑われるのが怖くて」

「馬鹿者!!」

今度は勢い良く机を蹴り飛ばした。少年が驚いて後ろに飛び退くが、すぐさま教官が間合いを詰めたので、両者の距離は変わらない。

「申し訳ありません!でも、自分は盗っていません」

「目の前で嘘を吐くような奴の言うことを何故信じなくてはならない!」

「すいません!!でも…」

「お前は先週、ラサークとやりあい、そのことで罰も受けた。彼女たちを恨んでいてもおかしくない」

「違…っ!」

「何が違う!!」

教官は少年に向かいカツカツと歩み寄り、胸ぐらを掴んだ。

「待って…ください」

少年の声が恐怖に震える。恐ろしい形相で睨み付けられ、目が離せなかった。

「確かに、嘘をついた自分が悪いですし、ラサークと喧嘩もしました。ですが、自分はそこまで卑劣なことはしていません。本当です」

「言いたいことはそれだけか」

少年が震えながら首をたてに振ると、教官の手が乱暴に離された。

「二度と俺に嘘をつくな。下がれ」

「せんせい!!」

「下がれ!」

少年を無理やり部屋から追い出し、タリウスはため息をこぼした。

「次」

教官の声に、また別の少年が入室して来る。タリウスが同じ質問を繰り返す。

「部屋で課題をやっていました」

「他には誰がいた」

「ドーンとカヴァナーです」

「二人は何を?」

「ドーンは本を読んでいて、カヴァナーはベッドにいました」

「その間、席を立った者はいるか」

「ドーンが一瞬どこかに行きました」

「一瞬?」

「はい。でもすぐに戻ったので、多分用を足しに行ったんだと思います」

「変わった様子はなかったか」

「特には。手ぶらでしたし、あいつには、ドーンにはそんな大それたことは出来ないと思います」

確かに、クリフ=ドーンはノミの心臓と呼ばれるくらい臆病なことで有名だった。
8

2021/2/5  0:47

ジョージア先生の長い長い夜1  小説


↓以下は、もともとサウンドノベル用のネタでしたが、諸般の事情により断念せざるを得なかったので、お蔵入りにするのも勿体ないと思いフツーに小説として公開します。

時系列や人物設定が???な部分があるかと思いますが、本編とは別物のパラレルとしてお楽しみいただけるとよろしいかと思います。



ある夜のこと。冷たく長い廊下を長靴の音がカツカツと響き渡たる。

タリウスである。彼は今、消灯点呼を前に兵舎内の見回りをしている。当直の仕事というわけではないが、火種を見付けたらなるべく早いうちに消し止めたい、そんな思いから自らの意思で始めたことだ。

士官学校始まって以来、初の試みである交換訓練生を受け入れてからというもの、ともすれば騒ぎが大きくなりがちだった。

すると、突然ドンドンと何かを叩く音が聞こえた。一体何事かと眉をひそめると、音は益々大きくなり、更には壁の向こうから、叫び声が聞こえてきた。

「せんせい!!助けてください!せんせい!!」

「その声は、オーデン?」

声は、一連の騒ぎの遠因のひとつだった。どうやら風呂場のほうから聞こえてくるようだ。

「ジョージアせんせいぃ」

教官の声にほっとしたのか、イサベルの声に涙が混じる。

「一体どうした。閉じ込められたのか」

「違います。着替えを盗られましたぁ!真っ裸で消灯点呼に行けません!どうしたら良いですかぁ?」

「は?どうしたらって…」

つまり、壁を一枚隔てた向こうには、あられもない格好をした女子訓練生がいるということだ。これには百戦錬磨の鬼教官も流石に狼狽を隠せない。

「ラサークはどうした?」

とにかくこういうときは、同性の力を借りる他ない。

「風邪気味だから、今日はお風呂には入らないと言っていましたぁ。なので、多分部屋で寝ていると思います」

「わかった。ラサークを呼んでくるから、もうしばらくそこで辛抱しろ」

「もう充分辛抱しましたぁ!寒すぎて、風邪ひきそうですうぅ」

悲痛な叫びに、床を踏み鳴らす音が加わる。

「ああ、もうわかったから、泣くな」

「泣いてないですぅ!!」

イサベルの精一杯の強がりを背中で聞きながら、タリウスは深いため息を吐いた。


「ラサーク!開けろ!ラサーク!」

先程イサベルがしていたように、今度はタリウスが部屋の主を呼びながら、居室の扉を叩いた。

「とっとと開けろ」

ほどなくして返事が返されたものの、一向に開かれない扉を前に、タリウスは苛立ちを隠せない。

「遅い!一体何をしていた」

「す、すみません。出られる格好をしていなかったので、着替えていました」

「お前もか…」

勘弁してくれ。タリウスは思わず額に手をやった。頭痛がしてきた。

「あの…」

俄に顔をしかめる教官を前に、大丈夫ですか、とアグネスが首を傾げた。

「何でもない。それより、今すぐ着替えを持って風呂場に行け」

「ですが、自分は今日お風呂には…」

「そうではない。オーデンが着替えを盗まれて難儀している。早いところ行ってやれ」

「盗まれたって、一体どういうことですか?!」

途端にアグネスが噛みついてくる。甲高い声に頭痛が強くなった。

「それはこれから調べる」

「実は先生に黙っていたことが」

そう言うアグネスの目が据わっている。もはや嫌な予感しかしなかった。

「何だ」

「私も昨日、下着盗まれました」

「は?」

「主任先生に何かあれば報告するよう言われましたが、流石に恥ずかしくて言えませんでした」

なかなか良い判断をした。そう思ったのも束の間、続く台詞に度肝を抜かれそうになる。

「なので、週末に主任先生の奥様のところに相談に伺おうかと…」

「だめだ。奥方は無関係だ。余計なことを言うな」

「だったら公安に…」

「ふざけるな!もっとだめだ」

「じゃあ、どうすれば良いんですか?て言うか、何で私たちがこんな目に遭わなきゃならないんですか?!」

思い余って叱りつけると、アグネスが逆上した。涙に濡れた瞳がこちらを睨み返してくる。

「落ち着け。お前の件もきちんと調べる。ラサーク、泣くな」

「泣いてません!」

アグネスが勢い良く踵を返し、その振動で長い髪が揺れた。彼女が級友の引き出しを漁り始めたのを見届けると、タリウスは部屋を後にした。

そうして足早に廊下を歩いているうちに、かつてないほど激しい怒りが腹の底から込み上げてきた。

「あの糞餓鬼共が…」

滅多に言わない暴言が自然と口から漏れ出した。その表情はまさに鬼の形相である。
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