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2021/5/2  2:29

先見之明2  小説

「レグラス=フォードという男を知っているか」

数日前、夕食の片付けをしていると、唐突に背後から問われた。ミゼットは大いに動揺し、思わず手にしていたコップを床に落とした。

「大丈夫かい?」

「ええ。ちょっとびっくりしただけ」

「相変わらずおっちょこちょいだね」

夫は呆れながらも、すぐさま屈んで割れた破片を拾い集めた。ミゼットはと言えば、依然として立ち尽くしたままだ。

「ああ、ごめんなさい」

「いや。それより先程の質問だが」

「北の狂戦士、通称化け物。ついでに無類の女好き。向こうじゃ知らない人なんていやしないわ」

ミゼットはさもゲンナリした顔を見せた。

「それで、レグラスさ…フォード卿がどうかした?」

「近々陛下に拝謁されるそうだ」

「何でまた」

「ここ最近、北方の諍いもようやく落ち着きを見せただろう。それもあって、長年の功績を労われるらしい。で、ついでと言ってはなんだが、あちこち視察をされるそうだ」

「まさか」

「そのまさかだ。どういうわけかうちにも来たいと言っているらしい。彼はいわゆる叩き上げだろう。士官学校出の将校をあまり良くは思っていない筈だ」

「ええ、そうよ。戦術も戦法も椅子に座って学ぶものじゃない。国境も見たことがないくせに、ひよっこが思い上がるな。そう言ってよく怒られた」

「君はフォード卿の部下だったのか」

「今のダルトンくらいのときに、何の因果か目に止まって、しばらくお仕えすることに」

出来ることなら、夫にこの話はしたくなかった。それでなくとも、北で経験したことはこれまであまり人に話したことがない。北での思い出は、中央への配置替えと共に彼の地に置いてきたのだ。

「ねえ、ゼイン。私、物凄く嫌な予感がする。断れないの?」

「出来るものならそうしたいが、そうもいかないだろう。だからこそ、君に相談しているんだ」

「相談って言ったって」

「訪問の目的は定かではないが、少なくとも楽しく兵舎を見学して、去り際に訓練生へ激励の言葉を賜ったりしないことだけは確かだ。ともかく穏便にお帰りいただくよう策を講じる必要がある」

「あなたはともかく、他の教官の手には負えない」

ミゼットが空(くう)を見つめ、唇を噛む。そして、大きなため息を吐いた。

「わかった。物凄く気が進まないけど、協力する。その代わり、責任は…」

「無論、すべて私がもつ。ついでに君のおねだりもまとめて聞くとしよう」

「それって先払い?」

ミゼットがいたずらっぽく目線を上げると、ゼインがふっと息を漏らした。

「ああ、よかろう」

途端に緊張が解けた。


レグラスを伴い、ミゼットはかつての学舎を風を切って歩いた。もっとも、腹の中は嵐のごとく激しい風が吹き荒れていた。

ひとまず出迎えは成功したと言って良い。レグラスの十八番は奇襲である。約束の時間より前に必ず現れるとミゼットは踏んでいた。

夫は、それならば教官や訓練生を集め、総出で出迎えるべきだと主張したが、彼女はそれに対し真っ向から異を唱えた。訓練生を見せるのは、出来る限り後だ。

「こちらが屋外演習場です。室内演習場とは異なり、本科生だけでなく、予科生をも同時に収容出来ます。またこの裏は演習林になっており、本格的な戦闘訓練が…」

早朝ということもあり、兵舎の中は静まり返っていた。ミゼットは、まるで朝の散歩でもするかのように、人気のない演習場を進んだ。

「おい、ひよっこ」

それまで黙々と半歩前を歩んでいた元上官が、ぴたりと歩みを止めた。ミゼットもそれに倣う。

「お前、除隊しろ」

「はい?」

かつて、週に何度この台詞を聞いただろう。その乱暴な物言いに、ミゼットは驚くどころか、むしろ懐かしさを覚えた。

「除隊して観光ガイドになれ。そうすれば、王都に来る度ひいきにしてやる」

「ありがたいお言葉ではありますが、あいにく除隊する気は…」

「だったら、さっきから何なんだこれは!演習場に訓練生が何人入れようと俺には関係ない。その訓練生とやらはどこにいる。とっとと見せろ」

「申し訳ございません。訓練生をご所望でしたか。本科生は教室で授業を受けておりますので、ご案内いたします」

「ふん、くだらん」

いきり立つレグラスを横目に、ミゼットは颯爽と踵を返した。


ようやくスマホが返ってきました。が、代替機に慣れたらそっちのが使いやすくて、機種変しようか本気で悩み中。
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