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2021/4/10  7:51

♪♪♪  小説

「シェール。どうした」

「え?」

父の問い掛けに、シェールはハッとして目を上げた。目の前には、こちらを窺う父の姿があった。

「えーと、僕も昔のこと思い出してた。昔のとうさんはさ、すごいやさしかったよね」

父という人間が、本質的にやさしい人であることは今でも疑いようがない。気心が知れたが故に遠慮がなくなったともとれるが、それでもシェールが幼かった頃の父は、やはり格別にやさしかった。

「それは昔のお前が素直でかわいかったからだ」

「今はひねくれててかわいくないってこと?」

「少なくともそんなことは言わなかっただろう」

確かに。そう思うと返す言葉が見付からない。シェールが沈黙していると、クスリと父が笑った。自分に向けられた穏やかな眼差しは、昔と少しも変わらない。

「さっきの話だけど、別に欲がないわけじゃないよ。ただ、欲しいものは大概買ってもらってるし、やりたいことだってさせてもらってる」

シェールがそのことに気が付いたのは、比較的最近の話だ。父が駄目だというのにはなにがしかの理由がある。むやみやたらに却下することはないのだ。

「たまたま今やりたいことが、働くことってだけで」

「大人になったら、否応なしに働くことになるんだ。何も今することとも思わないが、言い出したら聞かないからな、お前は」

それはお互い様と言うより、こっちのセリフだと思った。

「とうさんに似たんだよ、たぶん」

「どういう意味だ」

「別にそのままのい………わ!ちょっと?やめっ…!」

突如としてたくましい腕に自由を奪われ、あっという間に羽交い締めにされた。

「降参するか」

「し、しない!!」

シェールは咄嗟に万歳をした後、すかさずその場に屈んだ。どうにか父を振りほどくことには成功したが、突然のことに心臓がバクバクと音を立てた。

「ほう」

その半ば感心したような、意外そうな声に、シェールはこれで終わりではないと確信する。そして、改めて思うのだった。目前に立ちはだかる壁は存外に高い。


おしまい

長いこと一緒に暮らしていると、考え方や行動が似通っていきますよねっていう話。

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