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2020/3/16  23:39

鬼の牙城にて2  小説


かつての師の背中を追って、キールは古巣の廊下を進んだ。

頭の中は後悔とこれからのことへの不安でいっぱいだった。我ながらとんでもないことに首を突っ込んでしまった。上官夫妻の喧嘩など放っておいても誰かが止めに入っただろうに、何故あの場で名乗りをあげたりしたのだろう。

「先生、すいません」

「何だ」

「剣術のお手本って…」

「志願者の前で型の模範演技をするだけだ。簡単なことだろう」

無論、教官にとっては朝飯前だろう。だが、自分はその簡単なことが出来なくて、何度も教官を煩わせたのだ。

「念のため、一度さらっておきたいのですが」

「好きにしろ」

「いえ、ですから、その…」

自信があろうがなかろうが、今更出来ない等と言えば、恐らくは血を見るような事態に陥るだろう。そうであれば、是が非でも出来なければならない。

「先生、お願いします!どうにも自信がなくて、見ていただけないでしょうか」

「はぁ?」

深々と頭を下げると、向かい側から聞き覚えのある声がした。声は不機嫌極まりなかった。

「訓練生でもないのに、教官に泣き付くなんてどういう神経してるのよ。恥を知りなさい」

「すいません!」

どういうわけか、一足先に帰った筈の上官の姿がそこにはあった。自分達がこれから下ろうとした階段を丁度彼女は上がってきたところのようだった。

「あんたにはもううんざりよ。二度と戻って来ないで」

「まっ…!」

言うだけ言うと、上官はあっという間に視界から消えた。残されたキールは呆然としてその場に立ち尽くした。

「悪いが思い悩むのは後だ。ともかくまずは明日の段取りだ」

「ですけど」

「お前がやると言ったんだろう。見てのとおりこちらは時間がない」

教官の言うことはもっともだが、いかんせん心が付いていかなかった。

「大丈夫だ。身体で覚えたことはそう簡単には忘れない。それに、慰めになるかわからないが、志願者は全員お前を見るが、教官は誰もお前を見ない」

つまるところ、自分が失敗すれば、志願者もまた道連れである。
2



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