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2021/9/26  23:07

☆彡☆彡  小説

翌日、イサベルは浮かない顔で自席に座っていた。教室にはまばらに人影があるが、親友であるアグネスの姿はない。

それは、王都の地を踏んでからというもの、常に行動を共にしていた彼女たちにとって、珍しいことだった。

何のことはない。アグネスと喧嘩をしたからだ。いや、喧嘩というのは少し違う。見解の相違だ。

イサベルは、予科生の中盤に行われる紅白戦をそれは楽しみにしていた。どんな戦法をどのように使えば相手を追い詰められるか、考えただけでわくわくした。何より、これまで人知れず勉強してきたことが、ようやく実を結ぶと思ったら嬉しくてたまらなかった。

それがまさか、自分の案が採用されないばかりか、作戦会議にすら参加出来ないとは、誰が思うだろう。彼女はまず、この怒りを友人と共有しようと思った。

親友のアグネスは、日頃から軍学に興味があり、戦術や戦法に係わるマニアックな本を読みあさっている。自分と同じか、それ以上に怒って然りだと思った。

ところが、そんな予想に反し、アグネスの反応は非常にドライだった。教官の元へ抗議に行くと息巻くイサベルに、アグネスはこう言ったのだ。

「交換訓練生になったら、模擬戦は諦めなくちゃならないかもしれないってリッデル先生も言ってたじゃない。仕方なくない?」

確かに交換訓練生に選抜されたときに、郷里の教官から釘は刺された。中央と地方とでは、訓練の内容や進行速度に差がある。ひょっとしたら、どちらの模擬戦にも出られない可能性があるが、それでも中央に行きたいか問われていた。

だが、それはあくまで模擬戦そのものを経験出来ないことを想定している。これでは話が違う。

「何それ?そんな宿題あったっけ」

イサベルが怒りを再燃させていると、突然前方から声がした。顔を上げると、前の席の訓練生が、振り返りざまにイサベルの手元を覗き込んでいた。

「ち、違う。これは、ただの趣味よ」

「趣味?!地形図書くのがか?」

素頓狂な声に、たちまち教室中の耳目を集める。

「うるさいわね。人にかまってないで、自分の宿題でもやれば良いでしょ」

「何だよ、かわいくねえな」

「わかってるわよ!」

イサベルが勢い良く立ち上がると、少年もまた立ち上がった。

「ムキになるなよ。お前たちと関わるとろくなことがない」

少年はこれ見よがしに一歩後退し、こちらを一瞥した後、踵を返した。

「何なのよ、もう」

イサベルは乱暴に着席すると、ぶつぶつと口の中で文句を垂れた。すると、今度は隣から視線を感じた。

「何?」

「これって模擬戦の戦略図だよね」

声の主は、イサベルではなく机の上を凝視していた。かなりつっけんどんな対応をしたというのに、さして気にするそぶりもない。

「随分細かく書いているみたいだけど、どこの地形?」

「北部士官の演習林をベースにしてるけど…」

「そうなんだ。ちょっと見せてくれないかな」

「だ、だめだめ。人に見せるようなものじゃないもの」

イサベルは慌てて、書きかけの戦略図を両手で覆った。

「そう?すごく丁寧に書かれてるみたいだけど…じゃあ、紅白戦の戦略図を見せるから、その間交換しない?」

「ウソ?良いの?」

「良いに決まってるだろう。同じ班なんだから。そのつもりで声を掛けたんだし」

言われて初めて、イサベルは彼が同じ班のリーダーであることを認識した。彼の名前はノア=ガイルズ。ノアは、血の気の多い訓練生ばかりが集う士官学校の中にあっても、穏やかな気性をもち、幼稚な嫌がらせに加担してくることもなかった。

「わかった。少しなら」

それから、互いに紙の束を交換した。両者の目が忙しく動く。

にわかに早くなる鼓動を抑えながら、イサベルは食い入るように戦略図を見つめた。興奮して紙を繰る手が震えた。

「すごい」
「すごい」

二人は同時に声を発した。

「驚いたよ。知らない戦術ばかり出てくるから、随分先に進んでるんだね」

「本で先を読んだから。でも、この戦略図もおもしろかった。私、ここの演習場のことはよく知らなかったんだけど、地形のこととか、すごくよくわかった」

「そうかな。ねえ、オーデン。この戦略図、借りられないかな」

「え、でもこれは…」

それは入校したときから今日まで、あらゆるアイデアを書き連ねきた、言わばイサベルのすべてだ。

「これを元に、戦略を少し書き換えたい」

「私の案を使ってくれるの?」

「俺はそうしたいと思ってる。他のみんなを納得させるためにも、ちゃんと読みたいし、出来たら書き写させて欲しい」

「それは嬉しいけど、でも大事なものだし…」

「ノア!おい、何してるんだよ」

そこへ、ノアを呼ぶ声が割って入る。

「ごめん、今行く」

ノアは忙しない様子で返事を返すと、イサベルに向き合った。

「必ず一晩で返すよ。それでもダメかな」

「いい、わかった」

イサベルは意を決して、紙の束をノアに託した。


翌日は休日だった。訓練生たちは、朝食を済ませた後、思い思いに過ごすことが許される。

「オーデン、これ」

イサベルが食事を終え、丁度お茶を飲み干したところで、目の前の空席に、ノアが腰を下ろした。

「もう全部書き写したの?」

「いや」

ノアの返事に、イサベルは目を伏せた。昨日はああいったものの、冷静になって考えたら、わざわざ書き写すようなものではなかったということか。

「流石にこれだけあると、いっぺんに写すのは無理だった。でも、全部読んだよ」

「ウソ?」

「本当だよ。消灯した後、こっそり灯りをつけてみんな読んだ。眠くなったらやめるつもりだったんだけど、面白くて結局最後まで読んだ」

「そうなんだ」

イサベルは内心嬉しくて仕方がなかったが、表面上は出来るだけ感情を抑えた。

「今日これから予定ある?もしなければ、相談しながら仕上げたいんだけど」

「予定?ないない。全っ然ない」

だが、これ以上は堪えようがない。

「全然ないって、ひょっとしてまた外禁なの?」

「ち、違うわよ」

興奮気味に答えるイサベルに、ノアは好奇の目を向けた。


それからしばらくは、食堂で資料を広げて話し合った。だが、外は雨降りで、そのせいで休日だというのに、兵舎に残っている者がやけに多い。

ノアは友人も多く、周囲からの信頼も厚いと見え、二人で作業をしていても頻繁に話し掛けられた。その度に話の腰を折られ、作業時間に対して効率が悪い。

「ねえ、場所を変えない?」

「そうしたいけど、でもどこで?教室は勉強している人がいるだろうし、資料室は声を出すと先輩に怒られる」

「居室は?」

「ダメに決まってるだろう。同じ部屋の奴だって、絶対反対する」

万が一教官に見咎められるようなことがあれば、その場にいる全員に累が及ぶ。

「なら、私の部屋は?アグネスは出掛けてるから、そういう意味では平気だけど」

「でも、もし先生にばれたら…」

比喩ではなく、本当にどんな罰を受けるかわからない。

「点呼とか点検以外で先生が部屋に来ることなんて、滅多になかったけど。みんなの部屋には、わざわざ休みの日に見回りに来たりするの?」

「確かにそんなことはないけど」

規則を曲げられないと言うなら侵すしかない。結局、煮え切らないノアを押し切る形で、自室に連れ込んだ。二人は、初めのうちこそこの状況にドキマギしたが、話に没頭するうちに、やがて忘れた。

ノアは博識で、頭の回転も良く、それでいて少しも傲ったところがない。イサベルは、彼と過ごす束の間の時間に、かつてない充足感を得た。

時刻は昼前、ふいにこちらへ近付いてくる長靴の音に、二人は息を飲んだ。彼らは同時に立ち上がり、互いに顔を見合わせた。どちらも顔から血の気がひいている。

「隠れて」

立ち尽くすノアに、イサベルが声を掛ける。だが、気が動転したのかノアは動かない。

「良いから早く!」

イサベルが尖った声を発すると、ノアはようやく呪縛が解けたようだった。

イサベルはおもむろにベッドに手を伸ばすと、勢い良くシーツを捲り上げた。それから物入れの引き出しを引き抜いた。

程なくして、部屋の前で長靴の音が止まった。

「ドアを開けろ」

よく聞き知った無機質な声に、イサベルの背中が急速に寒くなった。

不自然にならない程度にゆっくりと扉を開けると、そこには思ったとおりの人物が起立していた。

「何をしている」

「特に何もしていません」

そう言うイサベルの声が震えている。訓練や授業のない休日は、教官たちもまた非番で、当直の教官だけが出勤している。しかし、その当直が、よりによって抜け目のない鬼教官だった。

「あれは何だ。何を隠した」

教官の視線はイサベルの背後へ注がれている。

「何でもありません」

「見せろ」

「い、嫌です」

「誰に向かって口を聞いている?お前には拒否する権利などない!」

間近に聞く怒声に身体が強張った。

「しつれいしました。でも、いやというか、そ、その………むりなんです」

イサベルは恐る恐る教官を伺った。その目に更なる怒りが宿るのが見えた。

「まだ言うか。退け」

教官はイサベルを押し退けると、一直線にベッドへ向かう。ベッドには不自然な膨らみがあった。

「あ!」

「なっ…?!」

教官の手がシーツに降れるや否や、イサベルが短く発し、ややあって教官が両目を見開いた。だが、教官はすぐさま身体ごと視線を逸らした。

「せ、せ、先生がいらっしゃるとは思わなくて、引き出しを整理していました。とりあえず、咄嗟にシーツを…」

「そ、それならそうと言えば良いだろう」

タリウスは目の前の光景を正視出来ず、横を向いたまま、片手で顔を覆った。

「すみません!でも、恥ずかしくて言えませんでした。よりにもよって、下着を隠しただなんて…」

言いながら、イサベルが鼻を啜った。

「もう良い。片付けろ」

タリウスはそのまま何も見ないようにして、部屋から引き上げた。

「許せ。悪気はない」

去り際にこう言い残して。


何故かまたしてもパンツネタ。う〜ん、おかしい…

7

2021/9/24  2:43

☆彡  小説


「ですから、何でダメなんですか」

放課後の中央士官学校である。教官室には到底似つかわしくない甲高い声が、廊下まで漏れ聞こえている。

「規則だ」

いきり立つ訓練生を尻目に、タリウスは短く発した。

訓練生の名は、イサベル=オーデン。北部士官学校からの預かりものであり、ここ最近の頭痛の種でもある。片割れのアグネス=ラサークは、身分証の一件で懲りたと見え、この場に姿を見せていない。

「でも、それでは話し合いに参加出来ません」

「話し合いなら、教室か食堂を使えば良いだろう。必ずしも居室でしなければならない理屈はない」

「そうですけど。でも…」

教官の言葉に一旦は引き下がるも、その目は納得出来ないと訴える。彼女の胸中を考えれば、至極当然のことだと思った。だが、あいにくどうすることも出来ない。

「いい加減にしろ。これ以上ごねたところで、どうにもならないことくらいお前にもわかるだろう。そうでなくとも、お前は無礼が過ぎる」

それ故、もはや力で押し切るより他なかった。

「何なら、自分の居室からも出られなくしてやろうか」

「し、失礼しました」

イサベルが慌てた様子で許しを乞う。見るからに上部だけの謝罪だが、それを咎める気にはならなかった。

「わかったら下がれ」

未だ不満そうなイサベルを追い出し、タリウスは吐息した。

イサベルの軽い足音が去り、入れ違いに軍長靴が大股で近付いて来る。今日は来客の予定はない。だとすれば、急を要する用か、はたまた野次馬か。直前の会話を聞かれたとしたら、また面倒なことになる。

「随分とまた威勢の良いのがいるな」

「トレーズ殿」

扉から現れた見知った顔に、ふっと緊張が解けた。

ファルコン=トレーズ、教育隊隊長にして、エレインやミゼットの同期生である。

「騒々しくて申し訳ありません」

「あれが噂の交換なんたらか。見るからに気の強そうな奴だな。一瞬、記憶が昔に返りそうになった」

ファルコンが昔を懐かしむように、いかつい顔をほころばせた。

「こちらとしても寝耳に水の状況です」

「泣く子も黙る鬼教官が、小娘ひとりに翻弄されているのか」

「小娘はひとりではありません。二人です」

「それは、なかなか同情を禁じ得ない話だな。ミルズ先生やノーウッド先生は、この状況を楽しむなり懐かしむなりしているんだろう」

「仰るとおりです。まるで私だけが、はずれくじを引かされたようなものです」

交換訓練生を受け入れることが決まってからというもの、タリウスは常に気苦労が絶えない。しかし、そんな自分とは相反して、主任教官も老教官もどこか愉しげである。そう思ったら、つい愚痴っぽくなった。

「ところで、本日のご用向きは?あいにくミルズ先生は、統括のお供で不在にしていますが、お約束でしたでしょうか」

「いや、先生に頼まれた資料を持ってきたんだが、急ぐようなものでもない。白状すると、半分はひやかしというか、ただの野次馬だ」

交換訓練生の噂を聞き付けてやってくる者は後をたたないが、自ら野次馬と名乗る者はそうそういない。タリウスは堪えきれずに息を漏らし、それからファルコンに来客用のソファを勧めた。

「忙しいだろうに悪いな」

「いいえ、訓練もひけていますし、構いません」

変わり者である上官の知り合いには、当然のごとく少々変わった者が多い。そんな中、ファルコン=トレーズは稀にみる常識人である。

「それで、交換なんたらというのは、具体的に何をするんだ?」

「特別なことは何も。交換訓練生も他の訓練生、予科生ですが、彼らと同じようにすべての訓練に参加します。ただ、今年は急遽、例年より前倒しで模擬戦をやることにはなりました」

「上からの指示でか」

「はい」

上は上でも、かなり上からの命である。無論、二つ返事で受けざるを得ない。

「人目を引く派手なことをして、成果を見せつけたいんだろうな。現場のことなどまるでお構い無しか」

ファルコンはさも不愉快そうに毒づいた。立場は違えど、上に対して思うところは自分たちと大差ないのだろう。

「紅白戦の編成はあらかた済んでいたので、一人ずつばらして班に組み入れたのですが、話し合いひとつとっても、当然のことながらうまくいきません」

「ああ、それで居室が何とか喚いていたのか」

思ったとおり、先程のやりとりをファルコンは聞いていたのだ。

「はい。作戦会議と称して、大概どこかの居室に集まって話し合うのが常ですが…」

「確かに、自分のときもそうだった。建前としては、敵方に聞かれないためだが、実際に聞き耳を立てている奴がいるとも思えない。狭い居室のほうが結束が高まるとか、そんなところだろうな。だがそうなると、必然的に女は排除される」

異性の居室に入ってはならないという鉄の掟があるからだ。これまで有名無実化していた規則が、ここへきて日の目を見た。

「ご自身のときは、どうやって彼女たちと情報を共有されていたんですか」

「そうだな、俺の班にはエレインがいたんだが、普通に教室の隅で話をしていたぞ。あいつのいない間に決まったことを伝えて、それから考えを聞いたりした。あいつの意見は奇抜だが、俺らには絶対考え付かないことを言うから、聞く価値があった」

つまりは、エレインの素養によるところが大きいのだろう。

「多分、ミゼットにはレックスが話していたんだろう。まあ、あいつらは二人で居室にいるところを一回捕まっているけどな」

ファルコンは思い出し笑いを堪えようと必死だ。

「そういったことはよくあったんですか」

「女と居室にいることか?それとも先生に見付かることのほうか」

「あ、いや、そのどちらもです」

「居室を行き来するのは、正直、日常茶飯事だったな。よく覚えていないが、先生にばれたのは、多分その一回だけだった筈だ。少なくとも俺は、そんなへまはしていない」

「そう、ですか」

男女でいがみ合っているのも問題だが、仲良くなったらなったで、また新たな問題が発生するようである。

「話を戻すが、そもそもにおいて、女は信用できないと言う奴もいたな。まあ、あいつらはおしゃべりだし、ミゼットにいたっては、カマを掛ければ大事なことですら、簡単にしゃべっちまうようなところがあったから、仕方ないんだが」

ファルコンは苦笑いを浮かべ、それから一応フォローのつもりか、最近はそんなこともないが、と付け足した。

「だから、必ずしも場所の問題だけではないだろう。それに、教官にこんなことを言うのはなんだが、最近は地方の訓練生のが出来が良い。彼女たちが自分たちの利になると思えれば良いんだがな」

実際、彼女たちは成績優秀で、兵学の知識にも長けている。北部で紅白戦をすれば、恐らく中心となって作戦を立てていたことだろう。本人たちとしても、現状は不本意な状況に違いない。

「そうかと言って、教官がよそ者に肩入れするわけにもいかないか」

「おいそれとは」

そんなことをすれば、確実に拗れる。既に痛いほど経験済みである。

「結局、見守るより他はなさそうです」

そう言えば聞こえは良いが、とどのつまり出来ることがない。タリウスは自嘲気味に言った。

「良いんじゃないのか、それで」

だが、ファルコンは昂然と言い放った。

「手綱さえしっかり握っていれば、あとは多少目を離したところでどうとでもなるだろう」

そうしてニヤリと笑った。
8

2021/9/24  2:33

結局  そらごと

いろいろと自分の書きたいものを整理したところ、今書きたいのは、これになりました。

本作は、もともとは復帰一作目「鬼の本領」の一エピソードでした。ただ、話が逸れるし、長くなるし、疲れてきたし、スパ関係ないしで、迷った挙げ句、削った部分です。

ただ、あれから二年経った今でもしつこく頭にあって、いつか書けたらと思っていたところ、「長い夜」を書いたときに、似たような内容のリクエストをいただきまして。

やっぱり書こうと思った次第です。

例によって、タイトルが難産なので、後でひらめいたら付けます。
6

2021/9/12  8:10

だらだらの秋  そらごと

秋ですね。何時にも増してごはんがおいしすぎて、ひたすら後悔の日々です。何だろう、揚げ物の誘惑が止まらなくて、週一で何かしら揚げてるっていう。いや、だっておいしいんだもん。

さて、秋と言えば、創作の秋なわけで、一昨年は「鬼の本領」、去年は「石の記憶」と、いずれも結構な長編を楽しく書いてきましたが…今年は、目下何も降りてきません。

なもんで、ここいらでしばらくおやすみしようと思います。

書きたいネタも、書きかけのネタも、あるっちゃあるんですが、今じゃないかなと(とりま一番書きたいのがクリスマスネタなんで💦)あとは、レイドとか、イサベルとか、アシェリーとか、気になる人もちょいちょいいますが。

休止前に比べて更新頻度も格段に上がり、アーカイブもかなりのものになったので、当面は読み返して過ごそうかと考えています。

あ、でも。メールなどはチェック出来ますので、何かありましたらお気軽にご連絡ください。

「誓い」の音声ファイルも、欲しい方は遠慮なくおっしゃってください。というのも、サンプルファイルが予想以上にダウンロードされていてビックリ。サンプルを聴いてみて、良いかも?と思われましたら、ぜひぜひ本編も聴いてみてくださいね。


しっかし、「指環」にしても「手紙」にしても、M/Fのタリウスは、シェールや教え子を叱ってるときとはもはや別人だなと思う今日この頃です。

なんだかんだ言って、やさしくて、面倒見の良いのがタリですが、普段は舐められてたまるかという気持ちが先行して、そういうやさしさを前面に出すことはありません。

でも、ユリアといるときは、自然体なんでしょうね。彼女は、これまでもこれからも、タリにとって良き理解者でいてくれると思います。

個人的には、タリに甘えるユリアより、平気で喧嘩を吹っ掛けるユリアのほうが好きなんだけれど。タリウスと対等に口が聞けるのは、彼女だけですから。
9

2021/9/7  2:58

【指環】2  小説(再掲)

「怖がらせて申し訳なかった」

人目も憚らず泣きじゃくるユリアに、タリウスはひどく動揺した。ともあれ彼女を落ち着かせようとその場に膝を折り、そっと髪に触れた。

「違うんです」

「はい?」

「そうじゃなくて、わたし…」

ユリアが懸命に話そうとするものの、嗚咽に紛れてよく聞き取れない。

「大丈夫ですか?ともかく帰ろう」

「帰れません」

「どうして?」

「だって…」

ふいに、近隣の民家に明かりが灯るのが見えた。まずい。そう思った矢先、またひとつ明かりが増えた。

「やむを得ません」

タリウスはランタンを手繰り寄せ、腰に掛けた。

「え…?」

そして次の瞬間、ユリアの身体が宙に浮いた。

「えっ?!」

まさかの事態にユリアは驚愕した。

「騒がないでください。これではまるで、本当に誘拐している気分だ」

「誘拐って…」

タリウスはあわてふためくユリアを抱き抱え、暗がりをずんずん進んだ。

「そう思われたくなかったら、少し静かにしていてください」

ユリアは、この段になってようやく状況を理解したのか、急速に大人しくなった。そうして間近に聞こえた鼓動に、顔を赤らめた。


「何があったのか尋ねても?」

数分後、ユリアを居室へ戻したところで、タリウスは再び疑問を口にした。

「ごめんなさい。私、指輪をなくしてしまいました」

「指輪って、あの?」

思わず聞き返すと、ユリアは無言で肯定した。

「勘弁してくれ」

タリウスは唖然として、考えるより先に言葉が口をついて出た。まるで身体中の力が抜けていくようだった。

「ごめんなさい」

「ああ、いや、そういうことではなくて」

自分の言葉に責められたと感じたのだろう。ユリアはほろりと涙をこぼした。

「泣くようなことですか」

「だって」

ユリアは左手の薬指を恨めしそうに見やった。そこには、数日前にはめたばかりの小さな石が光っている筈だった。

「元々あの指輪は魔除けのつもりで贈りました。あなたの代わりに指輪が厄災を引き受けてくれたのだとしたら、それはそれで構わない」

石には、古来より持ち主を災いから守る力があると信じられている。それ故、石が割れたり、なくなったりすることは、殊更悪い兆候ではないとされていた。

「でも…」

涙に濡れた瞳が忙しなく瞬く。

「それでも諦めきれないと言うなら、明日一緒に捜します。その上で、見付からなければ、また代わりのものを差し上げます。心配しなくとも、そのくらいの甲斐性はありますよ」

「いいえ、それではあまりに申し訳ないです。それに、そういう問題では…」

「確かに、そういう問題ではない」

そこでタリウスは意図的に声音を変えた。

「はい?」

ユリアが身構える。それが何を示すのか、彼女は本能的にわかっている。

「指輪を失くしたのは、不可抗力でしょう。もとより責めるつもりはありません。ですが、仮病まで使って、こんな時間に無防備に指輪を探し歩くなど、正気の沙汰とは思えません」

ユリアはしゅんとなり、それから、ごめんなさいと言ってこちらを見上げてきた。

「時々あなたが子供に見えて仕方がない」

「だって」

自分でもそう思ったのか、言い掛けてユリアは目を伏せた。タリウスには、その姿が言いようのないほど愛おしかった。

「さて、悪いことをした娘は、どうなるんですか」

「それは…罰を…いただきます」

「あなたにはどんな罰が相応しいと?」

「そんな、タリウス。意地悪言わないで」

「いいえ。これは躾です。ユリア、来なさい」

真っ向からユリアを見詰め、あえて厳しく命じた。彼女は小さく返事を返し、ほんの少し躊躇った後で、自らスカートをたくし上げ、下着に手を掛けた。

彼女の躾を請け負うようになって随分経つが、これまで一度たりとてそんなことを命じたおぼえはない。それだけに、彼女が本心から悔いているのがわかった。

「良い心掛けです」

察するに、彼女が悔いているのは指輪を失くしたことだ。そう思ったら、このまま何もせず解放してやりたくなった。だが、それでは彼女の気が済まないだろう。

ユリアを膝に横たえ、程なくして最初の一打を見舞った。白いお尻にくっきりと指の跡が浮かび、同時にビクンと身体がはね上がる。想像していたより遥かに痛い筈だ。

「しっかり反省しなさい」

その後も、少しも力を緩めることなく、左右のお尻に平等に平手を落とした。その間、ユリアは身体を固くして、ひたすら痛みを享受した。その姿は、まるで痛みを噛み締めているようにも思えた。

「少しは懲りましたか」

どうにもいたたまれなくなり、タリウスはお仕置きする手を止めた。

「ごめんなさい、タリウス。わたし、どうしたら良いかわからなくて…」

「そういうときは聞いてください。ほら、ユリア。おいで」

ユリアを膝から下ろし、そっと抱き寄せると、彼女のほうから強く胸にしがみついてきた。そのまま黙って抱き締めていると、ぽつりとユリアが呟いた。

「本当は、お顔を見たときからずっとこうしたかったです」

「それならそうと言ってください」

全く素直じゃないなと、タリウスは苦笑した。

「また買ってあげるから」

「イヤよ。気に入っていたんだもの」

「わかった。捜すから、いい加減、泣き止みなさい」

「だって、お尻が…」

「指輪が不要なら、いっそ鞭でも贈りましょうか」

「け、結構です!」

ユリアはぎょっとして声を上げ、それから頬を上気させた。


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