2020/3/28 5:09
とどのつまり(ネタバレあり) そらごと(音あり)
えーと50本目です。節目です。メモリアルです。
が、スパは?おちは?シェールは?みたいな話に仕上がる予定です。
とどのつまり、たまたま50本目がこれだっただけです。というか、このネタはあくまでお気に入りの妄想の一つで、そもそも本来は人様に読ませることを想定していなかったものです。それが、「鬼の牙城」を書いた流れで、いろいろあふれ出てきて、折角なのでアウトプットしました。
冒頭の怒れるゼインも、眉ひとつ動かさず予科生を黙らせるタリウスも、 ミゼットのカウンセリングも、もちろん見所なわけですが、私的に一番書きたかったのはダルトンの「服装に乱れが」だったりします。
ちなみに、「鬼の牙城」をもちまして、長年心残りだったネタは書き終わりました。いやまあ、それがこれかいって話ですが。キールとタリウスのその後の関係ってなんか好きです。
余談ですが、「鬼の牙城」から続く中央士官学校のゴタゴタは、現実世界の私の職場がかつてなく荒廃していることの現れに他なりません。管理しない管理職とか本当要らないから。
お世話になったBGM。
サンライズの男性向け(だろうなたぶん)アニメ。
珍しく全話視聴済みです。確か22話にスパシーンがあったはず。OTK平手M/Fで、なかなか良いですが・・・初見のときは話の筋がわかっていなかったので、「多頭飼いのご主人様と他の奴隷さんに嫉妬するM女さん」に見えてしまった。
3分に1回はエロみたいな作りなので、好き嫌いは分かれると思いますが、全編通して結構私は楽しめました。画と音楽が綺麗です。
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が、スパは?おちは?シェールは?みたいな話に仕上がる予定です。
とどのつまり、たまたま50本目がこれだっただけです。というか、このネタはあくまでお気に入りの妄想の一つで、そもそも本来は人様に読ませることを想定していなかったものです。それが、「鬼の牙城」を書いた流れで、いろいろあふれ出てきて、折角なのでアウトプットしました。
冒頭の怒れるゼインも、眉ひとつ動かさず予科生を黙らせるタリウスも、 ミゼットのカウンセリングも、もちろん見所なわけですが、私的に一番書きたかったのはダルトンの「服装に乱れが」だったりします。
ちなみに、「鬼の牙城」をもちまして、長年心残りだったネタは書き終わりました。いやまあ、それがこれかいって話ですが。キールとタリウスのその後の関係ってなんか好きです。
余談ですが、「鬼の牙城」から続く中央士官学校のゴタゴタは、現実世界の私の職場がかつてなく荒廃していることの現れに他なりません。管理しない管理職とか本当要らないから。
お世話になったBGM。
サンライズの男性向け(だろうなたぶん)アニメ。
珍しく全話視聴済みです。確か22話にスパシーンがあったはず。OTK平手M/Fで、なかなか良いですが・・・初見のときは話の筋がわかっていなかったので、「多頭飼いのご主人様と他の奴隷さんに嫉妬するM女さん」に見えてしまった。
3分に1回はエロみたいな作りなので、好き嫌いは分かれると思いますが、全編通して結構私は楽しめました。画と音楽が綺麗です。

2020/3/20 23:13
鬼の牙城にて〜おまけ〜 小説
「おかえりなさい」
隣に人の気配がして、ミゼットは寝所の中で夫の帰宅を知った。時計を見たわけではないが、恐らく深夜だろう。
「ああ、ただいま」
「お疲れ様。ねえ、昨日のことだけど」
「ミゼット、それを今やるのはやめないか」
「だって」
「わかった」
夫の声は疲れていたが、そうそう機嫌は悪くない。彼は観念して天井を見上げた。
「思ったんだけど、私のせいで気が散るのは別に志願者ってわけじゃなくて…」
「ああ、私だ」
どうしてこう悪びれもせず、さらりとそんなことが言えるのだろう。
「ゼイン」
「一年で一番忙しい日だ。心を乱されてたまるか」
ミゼットが精一杯非難がましい視線を向けるが、お相手はどこ吹く風だ。
「だったらそう言って。すぐにはわからないわよ」
「あの場でそんなことを言えるわけがなかろう」
「まあ、そうだけど」
だからといって、わざわざ自分を下げることもないだろう。無駄に怒らされるほうの身にもなって欲しい。
「君のほうこそ部下の前で感情的になるのはどうかと思うが」
「良いのよ、ダルトンだから」
些か乱暴な物言いたが、意外にも夫は反論してこなかった。
「ダルトンと言えば、助かったよ。彼を貸してもらえて」
「でしょう。もうあんまりいじめないで」
昼間本人からも報告を受けたが、改めて夫の口から謝意を聞いて、ミゼットは安堵した。
「別に苛めているわけではない。どうも君たちはダルトンの肩ばかりもつ」
「君たち?ジョージア教官のこと?」
「そうだ。なんのかんのとかまっては甘やかす」
「ああ、それはたぶんだけど、似てるのよ」
「誰が誰に?」
「ダルトンがシェールに」
「そうか?」
「一見すると温厚で虫も殺さないように見えて、その実結構大胆なことをするのよね、ふたりとも。それでいて根は善良だから、何かとかまいたくなるのかも」
「ふうん」
いかにも気のない返事に、夫が納得していないのか、そもそも興味がないのか、俄にははかれなかった。だが、次の台詞にミゼットははっとした。
「エレインと組ませてみたかったな」
「だ、だめよ。気は合ったかもしれないけど、あのふたりじゃ収集つかない」
「そうか。やはりあの手のタイプにはジョージアだな。彼は自分にはないものに惹かれる傾向にある。君と話していてわかった」
「あらそう。それにしても、随分とお気に入りなのね」
「私の一番はいつだって君だよ」
「もう」
はぐらかさないでよ、そう言いかけるが、言葉は声にならず暗闇に吸い込まれていった。
〜Fin〜

2020/3/19 0:03
鬼の牙城にて3 小説
翌朝、キールはいつもより早くに目が覚めた。これではまるで自分が志願者のようだ。そう思ったら、なんだか少し笑えてきた。
時間をもてあまし、結局早朝から兵舎へ向かった。通い慣れた室内演習場に足を踏み入れ、ふと周囲を見回した。隅から隅まで磨き上げられ、塵ひとつないのはいつもと同じだが、普段はない採点席らしきものが設置されているのを見て、否が応でも緊張が走った。
だが、実際に試験に臨む志願者たちを目にすると、途端にするすると緊張が解けていくのがわかった。
志願者と呼ばれる少年たちは、どの顔も緊張でガチガチだった。かつては、自分もあの中のひとりだった。あの頃は、選抜試験にさえ合格すれば、憧れの士官になれると思っていた。もちろん試験に受からなければスタートラインにすら立つことは出来ないわけだが、言うまでもなく、そこからの道程は長く険しかった。
何度もうやめてしまいたいと思い、何度もうやめてしまえと罵られたか。紆余曲折あり、自分は今、そんな道程を完走したのだ。
教官の号令に、考えるまでもなく、身体が勝手に動いた。志願者に課された試験は、基礎訓練の中でも特に初級者向けの型である。鬼教官監視の元、仲間と共に何百回と同じことを繰り返してきたのだ。出来ないわけがなかった。
士官候補生選抜試験は、剣術や射撃、走り込み等の実技試験から、座学や口頭試問に至るまでとにかく項目が多い。剣術の試験が終わると、教官はもちろん、志願者たちもすぐさま他の会場に移動した。
キールがひとり演習場を片付けているときだった。
「ダルトン」
出入口から教官が自分を呼んだ。
「下手に手を出したら最後、夜中までこき使われるぞ」
「ええ?!」
「今日はそういう日だ。嫌ならとっとと帰れ。非番なんだろう」
「はい」
教官の言葉にキールは慌てて戸口へ向かった。
「悪かったな」
「いえ、おっしゃるとおり大したことでは…」
「そうではない。昨日のことだ」
「昨日ですか?」
確かに昨日は色々あったが、少なくとも目の前の恩師に謝られるような覚えはなかった。
「昨日、お前の上官がああ言わなかったら、俺はお前の頼みを聞いてやってしまうところだった。そんな必要は少しもなかったというのに」
「先生」
「ミルズ先生ではないが、どうにも予科生のときの記憶が…」
「いえ、むしろなんかすいません」
全ては己の不徳のいたすところだ。
「これから上官のところに行くのか」
「ご存知のとおり怒らせてしまったので」
「彼女の怒りの根がどこにあるか、わかるか」
「それがですね、いまいち…」
発端は主任教官の不用意な一言だったとしても、最終的に彼女をカンカンに怒らせたのは自分に他ならない。
「端的に言って、お前は今上官の持ち物だ。相手が誰であろうと、自分のものを愚弄されて面白いわけがないだろう。だが、それだけなら家に帰って続きをすれば良い。問題はその後だ」
「つい弱気になって、自分が甘えたことを言ったからですか」
「五十点だ」
「えっと」
「確かにお前の発言自体、誉められたものではない。だが、彼女は頼まれれば大概のことは嫌だとは言わない。その辺りのことはお前のほうがわかっているだろう」
「それってつまり…」
「頭を下げる相手を間違えたんだ」
「ああ…」
キールは手のひらで額を打った。言われてみれば確かにそうだ。彼女は自分を蔑(ないがし)ろにされることを一番嫌う。それを裏付けるのがあのときの台詞だ。何故わからなかったのだろう。
「その事をわからず謝りに行ったところで、余計に怒りを買うだけだ」
「そうですよね。そうだと思います」
「わかったのならもう帰れ」
「先生、お忙しいのにいろいろありがとうございました」
教官は相変わらずの仏頂面だったが、キールはあえてそんな彼をまじまじと見返した。
「失礼します」
自分を見送る教官の眼差しは、思いの外やさしかった。
了
8
時間をもてあまし、結局早朝から兵舎へ向かった。通い慣れた室内演習場に足を踏み入れ、ふと周囲を見回した。隅から隅まで磨き上げられ、塵ひとつないのはいつもと同じだが、普段はない採点席らしきものが設置されているのを見て、否が応でも緊張が走った。
だが、実際に試験に臨む志願者たちを目にすると、途端にするすると緊張が解けていくのがわかった。
志願者と呼ばれる少年たちは、どの顔も緊張でガチガチだった。かつては、自分もあの中のひとりだった。あの頃は、選抜試験にさえ合格すれば、憧れの士官になれると思っていた。もちろん試験に受からなければスタートラインにすら立つことは出来ないわけだが、言うまでもなく、そこからの道程は長く険しかった。
何度もうやめてしまいたいと思い、何度もうやめてしまえと罵られたか。紆余曲折あり、自分は今、そんな道程を完走したのだ。
教官の号令に、考えるまでもなく、身体が勝手に動いた。志願者に課された試験は、基礎訓練の中でも特に初級者向けの型である。鬼教官監視の元、仲間と共に何百回と同じことを繰り返してきたのだ。出来ないわけがなかった。
士官候補生選抜試験は、剣術や射撃、走り込み等の実技試験から、座学や口頭試問に至るまでとにかく項目が多い。剣術の試験が終わると、教官はもちろん、志願者たちもすぐさま他の会場に移動した。
キールがひとり演習場を片付けているときだった。
「ダルトン」
出入口から教官が自分を呼んだ。
「下手に手を出したら最後、夜中までこき使われるぞ」
「ええ?!」
「今日はそういう日だ。嫌ならとっとと帰れ。非番なんだろう」
「はい」
教官の言葉にキールは慌てて戸口へ向かった。
「悪かったな」
「いえ、おっしゃるとおり大したことでは…」
「そうではない。昨日のことだ」
「昨日ですか?」
確かに昨日は色々あったが、少なくとも目の前の恩師に謝られるような覚えはなかった。
「昨日、お前の上官がああ言わなかったら、俺はお前の頼みを聞いてやってしまうところだった。そんな必要は少しもなかったというのに」
「先生」
「ミルズ先生ではないが、どうにも予科生のときの記憶が…」
「いえ、むしろなんかすいません」
全ては己の不徳のいたすところだ。
「これから上官のところに行くのか」
「ご存知のとおり怒らせてしまったので」
「彼女の怒りの根がどこにあるか、わかるか」
「それがですね、いまいち…」
発端は主任教官の不用意な一言だったとしても、最終的に彼女をカンカンに怒らせたのは自分に他ならない。
「端的に言って、お前は今上官の持ち物だ。相手が誰であろうと、自分のものを愚弄されて面白いわけがないだろう。だが、それだけなら家に帰って続きをすれば良い。問題はその後だ」
「つい弱気になって、自分が甘えたことを言ったからですか」
「五十点だ」
「えっと」
「確かにお前の発言自体、誉められたものではない。だが、彼女は頼まれれば大概のことは嫌だとは言わない。その辺りのことはお前のほうがわかっているだろう」
「それってつまり…」
「頭を下げる相手を間違えたんだ」
「ああ…」
キールは手のひらで額を打った。言われてみれば確かにそうだ。彼女は自分を蔑(ないがし)ろにされることを一番嫌う。それを裏付けるのがあのときの台詞だ。何故わからなかったのだろう。
「その事をわからず謝りに行ったところで、余計に怒りを買うだけだ」
「そうですよね。そうだと思います」
「わかったのならもう帰れ」
「先生、お忙しいのにいろいろありがとうございました」
教官は相変わらずの仏頂面だったが、キールはあえてそんな彼をまじまじと見返した。
「失礼します」
自分を見送る教官の眼差しは、思いの外やさしかった。
了

2020/3/16 23:39
鬼の牙城にて2 小説
かつての師の背中を追って、キールは古巣の廊下を進んだ。
頭の中は後悔とこれからのことへの不安でいっぱいだった。我ながらとんでもないことに首を突っ込んでしまった。上官夫妻の喧嘩など放っておいても誰かが止めに入っただろうに、何故あの場で名乗りをあげたりしたのだろう。
「先生、すいません」
「何だ」
「剣術のお手本って…」
「志願者の前で型の模範演技をするだけだ。簡単なことだろう」
無論、教官にとっては朝飯前だろう。だが、自分はその簡単なことが出来なくて、何度も教官を煩わせたのだ。
「念のため、一度さらっておきたいのですが」
「好きにしろ」
「いえ、ですから、その…」
自信があろうがなかろうが、今更出来ない等と言えば、恐らくは血を見るような事態に陥るだろう。そうであれば、是が非でも出来なければならない。
「先生、お願いします!どうにも自信がなくて、見ていただけないでしょうか」
「はぁ?」
深々と頭を下げると、向かい側から聞き覚えのある声がした。声は不機嫌極まりなかった。
「訓練生でもないのに、教官に泣き付くなんてどういう神経してるのよ。恥を知りなさい」
「すいません!」
どういうわけか、一足先に帰った筈の上官の姿がそこにはあった。自分達がこれから下ろうとした階段を丁度彼女は上がってきたところのようだった。
「あんたにはもううんざりよ。二度と戻って来ないで」
「まっ…!」
言うだけ言うと、上官はあっという間に視界から消えた。残されたキールは呆然としてその場に立ち尽くした。
「悪いが思い悩むのは後だ。ともかくまずは明日の段取りだ」
「ですけど」
「お前がやると言ったんだろう。見てのとおりこちらは時間がない」
教官の言うことはもっともだが、いかんせん心が付いていかなかった。
「大丈夫だ。身体で覚えたことはそう簡単には忘れない。それに、慰めになるかわからないが、志願者は全員お前を見るが、教官は誰もお前を見ない」
つまるところ、自分が失敗すれば、志願者もまた道連れである。

2020/3/15 8:25
鬼の牙城にて1 小説
「一体どうなっているんだ!何故本部から応援が来ない」
「も、申し訳ございません。手違いがあったようで、予定していた者が地方に行ってしまって明日は来られないとのことで…」
「あったようで?責任者は君ではないのか。君の連絡調整に落ち度があったからこういう事態に陥ったのだろうが!」
盗み聞きをする気などさらさらなかった。だが、こうも大音響でやられたら嫌でも一部始終が聞こえてしまう。
キール=ダルトンは、すっかり困り果てていた。扉を一枚隔てた向こうでは、主任教官が自身の部下を叱責していた。
「さっさと手紙を置いて帰るわよ」
「自分もそうしたいところですが、どう考えても無理ですよね」
「なんでよ。急ぎだって言ってたじゃない」
上官であるミゼット=ミルズの視線はキールの手元に注がれている。先程、成り行きで預かったこの手紙は、扉の向こう側の揉め事と恐らくは無関係ではない筈だ。
「でも」
「ほら、行きなさい」
上官がおもむろに扉を叩く。
「取り込み中だ!」
「すいません」
瞬時に返された怒声に息が止まりそうになった。扉越しでもこの迫力である。キールは思わず後ずさりそうになるが、上官はそれを許さない。彼女は部屋の主の許可なく扉を開けると、自分はすっと一歩後退した。
「何の用だ。見てのとおり、こちらは明日の試験で取り込んでいるんだが」
「その試験に関して、本部の方から手紙を預かって来ました」
「君がか?」
「いえ…」
キールは背後の上官を振り返った。
「ああ、君か」
「城内で担当者と行き合って、どうしても私から先生に渡して欲しいと懇願されました。断るつもりでしたが、部下が受け取ってしまいました」
「なるほど」
そこで、主任教官はいくらか態度を軟化させた。だが、手紙の封を切り読み進むうちに、どんどん表情が険しくなっていくのがわかった。
「この手紙の主は、ずいぶん前に応援の打診があったきり、昨日まで何の音沙汰もなかった故、この話は流れとばかり思っていたそうだ。代わりを出したいのは山々だが、今日の明日では不可能、現在方々で声を掛けてはいるが結果は芳しくないとある。あとは、謝罪の言葉が延々並べられている」
「いざというときには、ご自身が行く用意があるそうです」
この伝言を伝えて、キールの任務は終了する筈だった。
「まさか、指揮官にやらせるようなことではない。それに、手紙を読んだ限り、どう考えてもこちらの不手際だ。そういうわけだから、とっとと代わりを探せ」
「そうおっしゃいましても、心当たりは既にすべて当たりました」
「なら、君はこのまま明日になるまで、ここで代わりを待ち続けるつもりか」
「いえ、ですから今年は教官が手本になってはいかがかと」
「ただでさえ人手が足らないんだ。教官が手本になって、誰が試験官になる?採点はどうする!馬鹿も休み休み言え」
「では、私はこれで」
再び交戦が始まったところで、自分は無関係とばかりに、ミゼットが早々に撤退を始めた。もちろんキールもそれに従う。
「ちょっとお待ちください」
「私に何かご用?」
すがるような目を向けられ、ミゼットは視線だけ背後に送った。
「い、いえ。ああ、そうだ。実技試験のお手本をやっていただけませんか」
「は?じょ…」
「冗談じゃない!」
ミゼットが言い掛けるが、それよりも強い勢いで同じ台詞が上書きされる。
「彼女が手本では気が散る!」
「は?」
上官の顔つきが変わった。物凄く嫌な予感がした。
「女子の志願者がいるわけでなし、突然こんな色物が出てきたりしたら志願者が動揺する。彼らににしてみたら、候補生選抜試験は年に一度きりのチャンスだ。妙なことをして結果に影響したら、非礼だろう」
「私に対して物凄く非礼なことを仰っているのをおわかりですか」
「今はそんなことを言っている場合ではないだろう」
「非常時こそ人の本性を知るチャンスね」
「だから今は…」
「はいっ!!」
キールが挙手し、夫婦喧嘩を制した。
「何なの!」
「何だね!」
両者が同時に噛みついてくる。仲違いをしたところで、こういうときでも息は合うのだと思った。
「えーと、自分がその、やらせていただくというのは、どうかと思いまして」
「君が?」
「はい、幸い自分は明日非番ですし、もしもその、お役に立てるのでしたらと思ったのですが…出過ギタ真似デシタデショウカ」
勢いよく手を上げたものの、周囲の視線があまりに痛くて、声はたちまち尻窄みになっていく。まわりを見回せば、見知った教官たちの姿もまたそこにはあった。
「出過ぎた真似とは思わないが、君で大丈夫なのか」
「えーと」
即座に大丈夫ですとは言えなかった。
「確か君は、剣術の訓練のとき、そこにいるジョージア教官の追試だか再試だかをしょっちゅう受けてはいなかったか」
「ねえ、あんなもん追試になったりするの?」
主任教官の言葉に、上官が小声でささやく。昔を思い返してみるが、彼女には該当する記憶がない。
「すいません。なりました、自分は」
「ふん」
ふたりのやり取りを見て、ゼインが鼻で笑った。その行為が、一旦はおさまり掛けていた上官の怒りに再び火を点けた。
「それが何だって言うのよ」
ミゼットが口の中で呟く。
「追試だろうが再試だろうが、最終的に合格していたら何の問題もないじゃない。成績はあくまでも途中経過、卒校するときには全員最高水準に達している筈でしょう。というか、それがそちらの仕事ですよね」
ゼインは応えない。
「ああ、そう。昨今は義理や妥協で中途半端なまま、中途半端な者を士官として世に送り出し、挙げ句、こちらに寄越したということ」
「そんなことはありません」
静寂を破ったのはキールにとって意外な人物だった。
「我々は、彼がこちらの求める水準に充分到達していると判断して、ここから送り出しましたし、また貴殿にお預けしました。そうですよね、先生」
「ジョージアせんせい」
恩師の言葉に涙が出そうだった。そして、彼もまたあのふたりの夫婦喧嘩によく巻き込まるのかもしれないと場違いなことを思った。
「失礼。どうにも予科生のときのイメージが強くてね」
恐らく少しも悪いと思っていないだろう謝罪を聞きながら、キールは一刻も早くこの場からいなくなりたかった。心がほんの少し回復した今こそ、撤退するには最適だと思った。
「お借りしても?」
それ故、続く台詞に大いに驚いた。
「どうぞ、ご自由に」
失礼、と上官は踵を返した。キールが慌てて後を追いかけるが、見知らぬ教官に阻まれた。
「誰だか知らないが助かった」
背後から肩を抱かれと思ったら、ほとんど羽交い締めにされた。言外に逃してたまるかと言っているようだった。
「あ、いや、でも自分では」
あれだけ苔にされて、何故非番の日に働かなくてはならないのか。
「ジョージアに預けろ。君は他にやることがあるだろう」
「ミルズせんせい?」
「よろしく頼むよ。キール=ダルトン」
主任教官の満面の笑みを見ながら、あの頃と同じく、自身には選択する余地などないことを知った。それどころか、失敗したらどうなるか、立ちどころに背中が寒くなった。
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「も、申し訳ございません。手違いがあったようで、予定していた者が地方に行ってしまって明日は来られないとのことで…」
「あったようで?責任者は君ではないのか。君の連絡調整に落ち度があったからこういう事態に陥ったのだろうが!」
盗み聞きをする気などさらさらなかった。だが、こうも大音響でやられたら嫌でも一部始終が聞こえてしまう。
キール=ダルトンは、すっかり困り果てていた。扉を一枚隔てた向こうでは、主任教官が自身の部下を叱責していた。
「さっさと手紙を置いて帰るわよ」
「自分もそうしたいところですが、どう考えても無理ですよね」
「なんでよ。急ぎだって言ってたじゃない」
上官であるミゼット=ミルズの視線はキールの手元に注がれている。先程、成り行きで預かったこの手紙は、扉の向こう側の揉め事と恐らくは無関係ではない筈だ。
「でも」
「ほら、行きなさい」
上官がおもむろに扉を叩く。
「取り込み中だ!」
「すいません」
瞬時に返された怒声に息が止まりそうになった。扉越しでもこの迫力である。キールは思わず後ずさりそうになるが、上官はそれを許さない。彼女は部屋の主の許可なく扉を開けると、自分はすっと一歩後退した。
「何の用だ。見てのとおり、こちらは明日の試験で取り込んでいるんだが」
「その試験に関して、本部の方から手紙を預かって来ました」
「君がか?」
「いえ…」
キールは背後の上官を振り返った。
「ああ、君か」
「城内で担当者と行き合って、どうしても私から先生に渡して欲しいと懇願されました。断るつもりでしたが、部下が受け取ってしまいました」
「なるほど」
そこで、主任教官はいくらか態度を軟化させた。だが、手紙の封を切り読み進むうちに、どんどん表情が険しくなっていくのがわかった。
「この手紙の主は、ずいぶん前に応援の打診があったきり、昨日まで何の音沙汰もなかった故、この話は流れとばかり思っていたそうだ。代わりを出したいのは山々だが、今日の明日では不可能、現在方々で声を掛けてはいるが結果は芳しくないとある。あとは、謝罪の言葉が延々並べられている」
「いざというときには、ご自身が行く用意があるそうです」
この伝言を伝えて、キールの任務は終了する筈だった。
「まさか、指揮官にやらせるようなことではない。それに、手紙を読んだ限り、どう考えてもこちらの不手際だ。そういうわけだから、とっとと代わりを探せ」
「そうおっしゃいましても、心当たりは既にすべて当たりました」
「なら、君はこのまま明日になるまで、ここで代わりを待ち続けるつもりか」
「いえ、ですから今年は教官が手本になってはいかがかと」
「ただでさえ人手が足らないんだ。教官が手本になって、誰が試験官になる?採点はどうする!馬鹿も休み休み言え」
「では、私はこれで」
再び交戦が始まったところで、自分は無関係とばかりに、ミゼットが早々に撤退を始めた。もちろんキールもそれに従う。
「ちょっとお待ちください」
「私に何かご用?」
すがるような目を向けられ、ミゼットは視線だけ背後に送った。
「い、いえ。ああ、そうだ。実技試験のお手本をやっていただけませんか」
「は?じょ…」
「冗談じゃない!」
ミゼットが言い掛けるが、それよりも強い勢いで同じ台詞が上書きされる。
「彼女が手本では気が散る!」
「は?」
上官の顔つきが変わった。物凄く嫌な予感がした。
「女子の志願者がいるわけでなし、突然こんな色物が出てきたりしたら志願者が動揺する。彼らににしてみたら、候補生選抜試験は年に一度きりのチャンスだ。妙なことをして結果に影響したら、非礼だろう」
「私に対して物凄く非礼なことを仰っているのをおわかりですか」
「今はそんなことを言っている場合ではないだろう」
「非常時こそ人の本性を知るチャンスね」
「だから今は…」
「はいっ!!」
キールが挙手し、夫婦喧嘩を制した。
「何なの!」
「何だね!」
両者が同時に噛みついてくる。仲違いをしたところで、こういうときでも息は合うのだと思った。
「えーと、自分がその、やらせていただくというのは、どうかと思いまして」
「君が?」
「はい、幸い自分は明日非番ですし、もしもその、お役に立てるのでしたらと思ったのですが…出過ギタ真似デシタデショウカ」
勢いよく手を上げたものの、周囲の視線があまりに痛くて、声はたちまち尻窄みになっていく。まわりを見回せば、見知った教官たちの姿もまたそこにはあった。
「出過ぎた真似とは思わないが、君で大丈夫なのか」
「えーと」
即座に大丈夫ですとは言えなかった。
「確か君は、剣術の訓練のとき、そこにいるジョージア教官の追試だか再試だかをしょっちゅう受けてはいなかったか」
「ねえ、あんなもん追試になったりするの?」
主任教官の言葉に、上官が小声でささやく。昔を思い返してみるが、彼女には該当する記憶がない。
「すいません。なりました、自分は」
「ふん」
ふたりのやり取りを見て、ゼインが鼻で笑った。その行為が、一旦はおさまり掛けていた上官の怒りに再び火を点けた。
「それが何だって言うのよ」
ミゼットが口の中で呟く。
「追試だろうが再試だろうが、最終的に合格していたら何の問題もないじゃない。成績はあくまでも途中経過、卒校するときには全員最高水準に達している筈でしょう。というか、それがそちらの仕事ですよね」
ゼインは応えない。
「ああ、そう。昨今は義理や妥協で中途半端なまま、中途半端な者を士官として世に送り出し、挙げ句、こちらに寄越したということ」
「そんなことはありません」
静寂を破ったのはキールにとって意外な人物だった。
「我々は、彼がこちらの求める水準に充分到達していると判断して、ここから送り出しましたし、また貴殿にお預けしました。そうですよね、先生」
「ジョージアせんせい」
恩師の言葉に涙が出そうだった。そして、彼もまたあのふたりの夫婦喧嘩によく巻き込まるのかもしれないと場違いなことを思った。
「失礼。どうにも予科生のときのイメージが強くてね」
恐らく少しも悪いと思っていないだろう謝罪を聞きながら、キールは一刻も早くこの場からいなくなりたかった。心がほんの少し回復した今こそ、撤退するには最適だと思った。
「お借りしても?」
それ故、続く台詞に大いに驚いた。
「どうぞ、ご自由に」
失礼、と上官は踵を返した。キールが慌てて後を追いかけるが、見知らぬ教官に阻まれた。
「誰だか知らないが助かった」
背後から肩を抱かれと思ったら、ほとんど羽交い締めにされた。言外に逃してたまるかと言っているようだった。
「あ、いや、でも自分では」
あれだけ苔にされて、何故非番の日に働かなくてはならないのか。
「ジョージアに預けろ。君は他にやることがあるだろう」
「ミルズせんせい?」
「よろしく頼むよ。キール=ダルトン」
主任教官の満面の笑みを見ながら、あの頃と同じく、自身には選択する余地などないことを知った。それどころか、失敗したらどうなるか、立ちどころに背中が寒くなった。
