2010/3/27 17:27
Yes! そらごと
現在、諸般の事情によりひとを叱るところが書けません。いや、私自身がダメ過ぎて、とてもひとのことを言えた義理ではないというか…。
元々お仕置きのネタ提供は、殆ど自分自身です。片付けられないチビ、夜更かしして寝坊するお嬢さん、悪いことをしても嘘吐いて誤魔化しちゃう優等生、どれも私です。
だから、今更という気がしないでもないのだけど、ちょっと休憩。お題のほうは、いくつか構想があるので書くかもしれませんが。
さて、普段はタリタリと普通に話しているチビですが、叱られているときだけはそこそこ丁寧な言葉遣いをしています。一番わかりやすいのが返事。「うん」ではなく「はい」を使っています。
それは、タリタリがそう躾けたわけではなく、チビ自身がけじめとしてやっているのだと思います。友達のようなお兄ちゃんではなく、親代りとしての兄。畏敬の念があるのかも。
なんて、本当はただの趣味です。
私自身、お説教中は、まあまあ従順になっていました。言葉も丁寧になるし、もちろん返事は「はい」。一連のプレイの中で、私はこのときが一番好きです。
やっぱり、spankerさんが自分だけのために言葉を選んで、教えようとしてくれているから。叩くのはそれこそ誰にでも出来るけど、こっちは違う。うまいひとがやると、まるで自分がチビッコみたいに思えるのですよ。
ところで、タリタリは紙面の都合上、大概お説教しながら叩いています。それももちろん好きだけど、本当はbeforeでたっぷり叱られてから、駄目押しで言われたい。
ただいつもそれをやるとくどいし、かと言ってbeforeだけだとお仕置きシーンが淡白になってしまうからね。丁度良い分量って難しい…。因みに、私は「叩かれる」<「叱られる」なんだけど、これって一般的なのかしら。
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元々お仕置きのネタ提供は、殆ど自分自身です。片付けられないチビ、夜更かしして寝坊するお嬢さん、悪いことをしても嘘吐いて誤魔化しちゃう優等生、どれも私です。
だから、今更という気がしないでもないのだけど、ちょっと休憩。お題のほうは、いくつか構想があるので書くかもしれませんが。
さて、普段はタリタリと普通に話しているチビですが、叱られているときだけはそこそこ丁寧な言葉遣いをしています。一番わかりやすいのが返事。「うん」ではなく「はい」を使っています。
それは、タリタリがそう躾けたわけではなく、チビ自身がけじめとしてやっているのだと思います。友達のようなお兄ちゃんではなく、親代りとしての兄。畏敬の念があるのかも。
なんて、本当はただの趣味です。
私自身、お説教中は、まあまあ従順になっていました。言葉も丁寧になるし、もちろん返事は「はい」。一連のプレイの中で、私はこのときが一番好きです。
やっぱり、spankerさんが自分だけのために言葉を選んで、教えようとしてくれているから。叩くのはそれこそ誰にでも出来るけど、こっちは違う。うまいひとがやると、まるで自分がチビッコみたいに思えるのですよ。
ところで、タリタリは紙面の都合上、大概お説教しながら叩いています。それももちろん好きだけど、本当はbeforeでたっぷり叱られてから、駄目押しで言われたい。
ただいつもそれをやるとくどいし、かと言ってbeforeだけだとお仕置きシーンが淡白になってしまうからね。丁度良い分量って難しい…。因みに、私は「叩かれる」<「叱られる」なんだけど、これって一般的なのかしら。

2010/3/22 14:46
リアル怠け心と罪悪感 そらごと
ちょいと今回はメンタルなスパンキー話をしたいと思います。かなり鬱陶しいかもしれませんので、作品だけ読みに来てくださっている方はバックバック。あ、でも。別段、過激な話をしようというわけではないです。ただちょっと、個人的なお話。
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2010/3/19 15:30
元ネタはテレビ そらごと
只今これまでにないくらい、軽い気持ちで筆が進んでおります。
お読みになっていて、すぐにピンときた方も多いのではないかと思いますが、今回の話の元ネタは「べちゃ祭り」という岡山県で実際に行われているお祭りです。私自身は、残念ながらお祭りに参加したことはないのですが、先日飛行機のなかで偶然このお祭りの模様を「ナニコレ珍百景」で見まして、そのときにすぐさま降ってきたネタでした。
実際のお祭りも、結構激しいです。ミミズバレになったという子供もいたような。鬼(天狗?)も全力疾走だし、子供はギャーギャー。うーん、良いなぁ。
最初はそらごとのネタにでもしようかと思ったのですが、あれよあれよと情景が浮かんできまして、なんかもったいないくなりまして。元ネタを明らかにすれば掲載しても良いかなぁと考えて、書いてみました。なんか、この手の話って書いてて楽しいです。
さて、今回は珍しく名前の付いた候補生が出てきましたが、一応彼らは二回目の登場だったりします。幼な〜の3に出ていたコンビがそうです。うまくキャラが立つと良いのですが。
それにしても、最近考え付くネタは大概ミルズ先生絡みです。そんなわけで、たぶんしばらく彼が出張ります。
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お読みになっていて、すぐにピンときた方も多いのではないかと思いますが、今回の話の元ネタは「べちゃ祭り」という岡山県で実際に行われているお祭りです。私自身は、残念ながらお祭りに参加したことはないのですが、先日飛行機のなかで偶然このお祭りの模様を「ナニコレ珍百景」で見まして、そのときにすぐさま降ってきたネタでした。
実際のお祭りも、結構激しいです。ミミズバレになったという子供もいたような。鬼(天狗?)も全力疾走だし、子供はギャーギャー。うーん、良いなぁ。
最初はそらごとのネタにでもしようかと思ったのですが、あれよあれよと情景が浮かんできまして、なんかもったいないくなりまして。元ネタを明らかにすれば掲載しても良いかなぁと考えて、書いてみました。なんか、この手の話って書いてて楽しいです。
さて、今回は珍しく名前の付いた候補生が出てきましたが、一応彼らは二回目の登場だったりします。幼な〜の3に出ていたコンビがそうです。うまくキャラが立つと良いのですが。
それにしても、最近考え付くネタは大概ミルズ先生絡みです。そんなわけで、たぶんしばらく彼が出張ります。

2010/3/19 15:28
鬼の子供 小説(再掲)
「ここに集まってもらったのは他でもない。君たちには極秘任務を与える」
ゼインの執務室には予科生が数人、集められていた。彼らは教官の台詞に互いに顔を見合わせた。
「あれが何かわかる者はいるか?」
視線の先には黒い布の塊が数個、並べて置いてある。外套に見えないこともないが、それにしてもはっきり何とは答えられない。少年たちは皆一様に沈黙した。
「テイラー=エヴァンズ。君はこの近辺の生まれだろう。近くへ行って、よく見てみろ」
突然名を呼ばれて、彼はドキッとなる。今まで、こういう局面で自分にお鉢が回ってくることなどなかった。体力には自信があったが、それ以外はパッとしない。成績は下のほう、素行も決して良いとは言えない。だから、何故自分がここにいるのか、理解できなかった。
「失礼します」
それでも上官の命は絶対である。彼は塊の一つに近付くと、おもむろに持ちあげた。すると、布の下には長靴が一足置いてあった。ごてごてと飾りがついたその長靴は、あまり実用的ではなさそうだった。しかし、やはり見覚えがない。そう思い、元に戻そうとすると、布の間からカランと仮面のようなものが転げ落ちた。
「申し訳ありませ…」
慌てて拾い上げ、表を返した彼は、絶句した。
「これって、鬼祭りの…」
全体を漆黒に塗られたその仮面には、釣り上がった大きな目と、口から飛び出した二本の牙が付いいる、仮面は、昔と同じように不気味にテイラーを見ていた。
「その通り。鬼祭り、正式には雪割祭りと言ってな、もう時期この町では春の訪れを喜ぶ大きな祭りが開催される。これらは、そのメインイベントで使う。それは…エヴァンズ、君から説明したまえ」
はい、と返事を返し、テイラーは仲間たちのほうへ向きなおる。
「これを着た鬼たちが、子供を追い回すんだ。街中を、その、鞭を持って」
「鞭?」
教官の前であることを忘れ、思わずひとりが声をあげた。
「そうだ、キール=ダルトン。君たちにはその鬼の役をやってもらう」
すかさずギロリと睨まれ、キールは冷や汗を掻く。彼もまた、何故自分がここに呼ばれたのかわからないひとりだった。それにしても、鬼なら何も自分たちがならずとも、そう思ってゼインを盗み見ると、またしても目が合った。
「先生たちがやればいいのにとか、思っているわけではなかろうね」
皆同じことを考えていたのだろう。いいえ、と申し合わせたかのように否定しまくるのが何よりの証拠である。あまりのことに、ゼインは怒る気も失せた。
「我々は、陛下、国、そして市民のために存在している。だが、こう平和な世の中だと、そのことすら忘れてしまわれがちだ。だから、こういった機会に士官学校として地域に貢献するのだよ。つまりはだ。普段から厳しい訓練に明け暮れている君たちなら、二三時間ぶっ通しで走り続けていても問題なかろうと、そういう話だ」
ゼインの言葉には、訓練の一環でもあるから手を抜くな、という意味も含まれているのだろう。彼らは神妙にうなずいた。
「言い伝えでは、鬼に叩かれるとこの1年間健康でいられると言われている。だから、子供とはいえ、捕まえたら遠慮せずに打って良い。だが、くれぐれもやりすぎないように。万が一怪我でもさせようものなら、この私が許さない」
この他にも、打って良いのは背中や尻で、胸や腹、顔は打ってはいけないとか、子供が転んだら助け起こしてはいけないが、自力で起きるまで打ってはいけないとか、鬼は軍の要請で来ていることになっているから失態は許されないだとか、何があっても声を出してはいけないとか、ゼインは事細かに注意を与えた。彼らも少し前までは子供と呼ばれていた年齢だ。そうしないと、何をやらかすかわからなかった。
「最後に、この任務は極秘であるから、誰にも口外してはならない。兵舎でも、君たちのことを知っているのは、統括と私、それに一部の教官のみだ。以上、あとはエヴァンスにでも聞け」
そこで、テイラーは自分が地元の出身だから選ばれたのだと理解する。一方、そのテイラーと仲が良いキールのほうは、未だ疑問が解消されなかった。
祭りの日は、文句なしの晴天だった。しかし、そんな天気とは対照的に予科生扮する鬼たちの気は重い。
「これ、すごい走りにくい」
「ていうか、その前によく前が見えないんだけど」
テイラーとキールのコンビである。確かに、丈増しするために作られた長靴は厚底で走りにくく、鬼の仮面に空いた覗き穴は小さく視界が狭い。おまけに、ひらひらしたマントは布の量が多く、上手くさばかないと足に絡まった。
「あーん!やめてぇ、来ないで!」
「やだ!痛いー痛いっ」
それでもなんとかして子供を捕らえると、予想以上の反応に段々面白くなってきた。日頃鞭に怯えているのは自分たちだというのに、今日は一転して怖がられる立場になったのだ。
「ああ、怖かったね」
見れば、ゼインが泣きだした子供の頭を撫でている。教官のこんな姿を見るのもまた一興だった。
「おい、キール。あいつ、捕まえたか?」
しばらくは別々に行動していたふたりであるが、街中で再び再会した。
「ううん。それがすごい足が速くて、なかなか捕まらない」
「やっぱりな。なんかオレ、燃えてきた。絶対捕まえてみせるから、手伝ってくれ」
獲物は大きければ大きいほど達成感も大きいというものだ。彼らはひとりの少年に狙いを定めると、全速力で追った。
「なんで僕ばっか追いかけるのさ」
一方、少年、シェールも無我夢中で逃げた。あの中にはたぶん人が入っているのだろうとはわかっていたが、それでもやはり怖かった。一緒にいたはずの兄とはどこかではぐれた。
「キール、この道はあっちとつながってるから、逆から来い」
「わかった」
そこは地元民のテイラー、このあたりの地理には明るい。
「やーだー」
途中で鬼はひとりに減ったが、相変わらずしつこく自分を追跡してくる鬼を振り返り、シェールは喚く。次第にその距離が縮まっているのだ。
「うそーっ!」
見れば反対側からも鬼が迫ってくる。鬼に囲まれ、シェールは絶叫した。鬼たちが手を振り上げる。
「やだぁ」
そうはいっても、実際はぺしぺしと軽く鞭を身体に当てるだけだ。殆ど痛みはない。
「わーん!」
だが、問題は痛みよりも恐怖だ。大きな鬼ふたりに迫れられ、シェールはその場にしゃがみこんでしまった。流石にかわいそうになって、キール扮する鬼がつんつんとシェールを突っつき、心配そうに顔を覗き込む。
「やー!もうヤダー!」
間近に迫った鬼の面に、シェールは益々泣きだした。たとえ本体がどんな表情をしようと、今日の彼らは常に鬼の形相なのだ。
「シェール」
名前を呼ばれ、シェールは一目散に声の主のほうへと駆け出した。
「げ!」
「ジョージア先生!」
二人は同時に呟く。
「大丈夫。シェール、大丈夫だよ」
屈んで子供の背を擦っているその姿は、やさしさに満ち溢れていて、とても自分たちの知っている教官と同一人物とは思えなかった。
「あいつ、先生の子だったのかな」
「わかんない。でも、どう見てもそうだよね」
先ほどゼインがしていたことを思えば、通りすがりに子供を慰めているように見えなくもない。だが、教官にしがみついて泣いている子供を見る限り、その可能性は限りなく低い。
「二人掛かりで、それも挟み打ちをするとは、今年の鬼は随分と意地が悪い」
低く言って鬼たちを睨みつけるのは、まごうことなく見慣れた教官だった。
「ヤバイ。どうしよう」
「オレたち、殺されるのかな…」
「あっ!鬼だ!!」
すっかり凍りついた鬼たちを、子供たちの声が我に返えさせる。反射的に二人は声のしたほうを振り返る。子供たちがわあっと駆け出す。教官のほうを見ると、声なき声で、行けと命じられた。
「ねえ、テイラー。思ったんだけど、ジョージア先生は俺たちが誰かわかってないんじゃないかな」
「ああ、言われてみればそうだな。ミルズ先生も、知っているのは一部の先生だって言ってたし。知ってたとしても、仮面かぶってるし」
子供を追い掛けながら、小声で会話を交わす。だが、なんとなくまだ安心出来ない。
「でも、もしばれたとしたら」
「何でオレたち鬼なのに、こんなにビビってるんだろう」
「それは先生が本物の鬼だからだよ」
テイラーもキールも、タリウスの指導を受けたことがあった。それどころか、キールに至っては、泣かされたことまである。その恐ろしさは実証済みである。
「ああもう、最悪だぁ」
吐き捨てるようにして言うと、キールは走る速度を上げた。こうなったらヤケだ。街中の子供を捕まえてやろうと思った。そうすれば、教官の子供だけを狙い撃ちにしたわけではないと言うことが出来る。それに気付いたのか、テイラーもまたがむしゃらに走った。
結局、この後ふたりは街中を全力疾走し、子供という子供を打った。途中で何故か大人も追いかけまわしたりと、少々の暴走を見せながら、なんとか任務を果たした。この日、兵舎へ帰った彼らは、これまで課されたどの訓練のときより激しく疲弊していた。
翌日、ゼインは極秘任務を終えた候補生たちを再び執務室に集めた。今日の彼は殊の外上機嫌である。
「昨日はご苦労だったね。町長の覚えもめでたく、君達には労いの言葉をいただいた」
他の候補生がにこやかに教官の話に耳を傾ける中、浮かない顔がふたつ並ぶ。言わずと知れたテイラーとキールである。本来ならば一番褒められるべき人間なのだが、本人たちも含めそのことに気付く者はいない。
「そうそう。今回君達を推薦したジョージア教官には、私も感謝している」
何気なく教官が発した言葉に時が止まった。
「ジョージア先生?」
「ジョージア先生!」
そして、揃って過剰に反応する。
「なんだ、騒々しい」
素頓狂な声に話の腰を折られ、ゼインがふたりをねめつけた。
「人の話は黙って聞く。君達の大好きなジョージア先生はそんなことも教えてくれないのか」
一瞬の沈黙の後、やたらと大きくいいえと返す。すべてを否定したかった。
「例年、鬼の役は私が適当に選んでいるのだが、今年はジョージア教官に決めてもらったのだよ。普段から、君達のことをよくみてくれているからね」
その後も教官の話は続いたが、もはや二人の耳には全く持って入らなかった。
そんな調子だったから、ゼインの執務室を出た後も相変わらずふたりは上の空だった。それ故、反対側から向かってくる足音に気が付いてはいたものの、つい注意を払うのを怠った。
「挨拶はどうした」
すれ違い様に発せられた険のある声に、ふたりは慌てて背筋を伸ばす。目上の者に敬意を払い忘れるなど、ここではあり得ない。
「申し訳ありません!」
「失礼しました!」
反射的に頭を下げながら、テイラーはその声と先ほどから自分の脳裏に浮かんでいる人物とがリンクした。そして、顔を上げると予想通りの人物がそこにはいた。
「まあ良い。大方、昨日張り切り過ぎて疲れたのだろう」
タリウスは溜め息交じりにそう言うと、いくらか表情を和らげた。
「ともかく上手くいったようで、安心した。チビも楽しかったようだしね」
「楽しいって、あの、どう見ても泣いていましたけど」
昨日の様子がありありと思い出される。子供相手に本気を出し、泣かした揚句、なんとそれは教官の子供だった。
「やはりお前たちか」
教官の冷たい声に、しまったとテイラーは息を呑む。彼の隣では、馬鹿とキールが顔を覆った。まんまと嵌められた。
「な、泣かすつもりなんてなかったんです、本当に全然」
「そうです。ただあまりにもすばしっこくて、あの恰好だし、ひとりじゃ敵わなくて、つい。そもそも子供のくせに足が速すぎなんです」
必死に弁明する元鬼のコンビがおかしかった。
「確かに、その点では俺も手を焼いている」
「先生もですか?」
苦笑いする教官に、意外だとばかりにキールが聞き返す。
「鬼ごっこだ、かけっこだと遊んでいるうちに、逃げ脚ばかり速くなってしまってね」
「先生と鬼ごっこすれば、そりゃ…」
うっかりとんでもないことを口走りそうになり、慌ててキールは言葉を切った。
「そりゃ?」
しかし、それをタリウスは逃さない。
「き、鍛えられますよね」
「そりゃあもう」
テイラーの協力により、なんとか事なきを終える。
「そうかもしれないな。しかし、楽しかったというのは本当だ。確かに怖い思いもしたようだが、来年も行きたいと言っていたから」
さあもう下がって良いと、タリウスはその場から立ち去ろうとする。そもそも、昨日の件はあれでもう決着がついている。この上、咎める気は最初からなかった。
「先生、ひとつだけ教えてください」
だが、そんな教官をキールが呼び止める。
「テイラーが今回の役に選ばれたのは、地元出身だからなんとなくわかります。でも、オレは…」
「地元?いや、それは知らなかった」
「じゃあ、どうしてですか?」
タリウスの反応に、ふたりとも不思議そうに教官へ視線を送った。優等生でも何でもない自分たちが、何故抜擢されたのか、さっぱりわからなかった。
「一番ふさわしいと思った、それだけだ」
そう言われても、謎は深まるばかりである。ふたりは互いに顔を見合わせた。
「たとえ結果が出せなくとも、失敗しようとも、投げ出すことなく最後まで努力を怠らない。お前たちのそういうところを、評価した結果だ」
教官の言葉はふたりにとって全く意外なものだった。これまで数え切れないくらい叱られてはきたが、褒められたのは初めてと言って良い。この鬼はただの鬼ではなかった。
「傲慢なのは困るが、もう少し自分に自信を持っても良い」
半ば自分に向けた言葉だった。数日前、初めにゼインへ名簿を見せた時、本当にこれで大丈夫なのか問われた。だが、彼らを指導しながら自身で導き出した結果である。そう易々とは曲げられず、大丈夫ですと言い切った。しかし、その実彼らのことを一番心配していたのは他ならぬタリウスだった。
了
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ゼインの執務室には予科生が数人、集められていた。彼らは教官の台詞に互いに顔を見合わせた。
「あれが何かわかる者はいるか?」
視線の先には黒い布の塊が数個、並べて置いてある。外套に見えないこともないが、それにしてもはっきり何とは答えられない。少年たちは皆一様に沈黙した。
「テイラー=エヴァンズ。君はこの近辺の生まれだろう。近くへ行って、よく見てみろ」
突然名を呼ばれて、彼はドキッとなる。今まで、こういう局面で自分にお鉢が回ってくることなどなかった。体力には自信があったが、それ以外はパッとしない。成績は下のほう、素行も決して良いとは言えない。だから、何故自分がここにいるのか、理解できなかった。
「失礼します」
それでも上官の命は絶対である。彼は塊の一つに近付くと、おもむろに持ちあげた。すると、布の下には長靴が一足置いてあった。ごてごてと飾りがついたその長靴は、あまり実用的ではなさそうだった。しかし、やはり見覚えがない。そう思い、元に戻そうとすると、布の間からカランと仮面のようなものが転げ落ちた。
「申し訳ありませ…」
慌てて拾い上げ、表を返した彼は、絶句した。
「これって、鬼祭りの…」
全体を漆黒に塗られたその仮面には、釣り上がった大きな目と、口から飛び出した二本の牙が付いいる、仮面は、昔と同じように不気味にテイラーを見ていた。
「その通り。鬼祭り、正式には雪割祭りと言ってな、もう時期この町では春の訪れを喜ぶ大きな祭りが開催される。これらは、そのメインイベントで使う。それは…エヴァンズ、君から説明したまえ」
はい、と返事を返し、テイラーは仲間たちのほうへ向きなおる。
「これを着た鬼たちが、子供を追い回すんだ。街中を、その、鞭を持って」
「鞭?」
教官の前であることを忘れ、思わずひとりが声をあげた。
「そうだ、キール=ダルトン。君たちにはその鬼の役をやってもらう」
すかさずギロリと睨まれ、キールは冷や汗を掻く。彼もまた、何故自分がここに呼ばれたのかわからないひとりだった。それにしても、鬼なら何も自分たちがならずとも、そう思ってゼインを盗み見ると、またしても目が合った。
「先生たちがやればいいのにとか、思っているわけではなかろうね」
皆同じことを考えていたのだろう。いいえ、と申し合わせたかのように否定しまくるのが何よりの証拠である。あまりのことに、ゼインは怒る気も失せた。
「我々は、陛下、国、そして市民のために存在している。だが、こう平和な世の中だと、そのことすら忘れてしまわれがちだ。だから、こういった機会に士官学校として地域に貢献するのだよ。つまりはだ。普段から厳しい訓練に明け暮れている君たちなら、二三時間ぶっ通しで走り続けていても問題なかろうと、そういう話だ」
ゼインの言葉には、訓練の一環でもあるから手を抜くな、という意味も含まれているのだろう。彼らは神妙にうなずいた。
「言い伝えでは、鬼に叩かれるとこの1年間健康でいられると言われている。だから、子供とはいえ、捕まえたら遠慮せずに打って良い。だが、くれぐれもやりすぎないように。万が一怪我でもさせようものなら、この私が許さない」
この他にも、打って良いのは背中や尻で、胸や腹、顔は打ってはいけないとか、子供が転んだら助け起こしてはいけないが、自力で起きるまで打ってはいけないとか、鬼は軍の要請で来ていることになっているから失態は許されないだとか、何があっても声を出してはいけないとか、ゼインは事細かに注意を与えた。彼らも少し前までは子供と呼ばれていた年齢だ。そうしないと、何をやらかすかわからなかった。
「最後に、この任務は極秘であるから、誰にも口外してはならない。兵舎でも、君たちのことを知っているのは、統括と私、それに一部の教官のみだ。以上、あとはエヴァンスにでも聞け」
そこで、テイラーは自分が地元の出身だから選ばれたのだと理解する。一方、そのテイラーと仲が良いキールのほうは、未だ疑問が解消されなかった。
祭りの日は、文句なしの晴天だった。しかし、そんな天気とは対照的に予科生扮する鬼たちの気は重い。
「これ、すごい走りにくい」
「ていうか、その前によく前が見えないんだけど」
テイラーとキールのコンビである。確かに、丈増しするために作られた長靴は厚底で走りにくく、鬼の仮面に空いた覗き穴は小さく視界が狭い。おまけに、ひらひらしたマントは布の量が多く、上手くさばかないと足に絡まった。
「あーん!やめてぇ、来ないで!」
「やだ!痛いー痛いっ」
それでもなんとかして子供を捕らえると、予想以上の反応に段々面白くなってきた。日頃鞭に怯えているのは自分たちだというのに、今日は一転して怖がられる立場になったのだ。
「ああ、怖かったね」
見れば、ゼインが泣きだした子供の頭を撫でている。教官のこんな姿を見るのもまた一興だった。
「おい、キール。あいつ、捕まえたか?」
しばらくは別々に行動していたふたりであるが、街中で再び再会した。
「ううん。それがすごい足が速くて、なかなか捕まらない」
「やっぱりな。なんかオレ、燃えてきた。絶対捕まえてみせるから、手伝ってくれ」
獲物は大きければ大きいほど達成感も大きいというものだ。彼らはひとりの少年に狙いを定めると、全速力で追った。
「なんで僕ばっか追いかけるのさ」
一方、少年、シェールも無我夢中で逃げた。あの中にはたぶん人が入っているのだろうとはわかっていたが、それでもやはり怖かった。一緒にいたはずの兄とはどこかではぐれた。
「キール、この道はあっちとつながってるから、逆から来い」
「わかった」
そこは地元民のテイラー、このあたりの地理には明るい。
「やーだー」
途中で鬼はひとりに減ったが、相変わらずしつこく自分を追跡してくる鬼を振り返り、シェールは喚く。次第にその距離が縮まっているのだ。
「うそーっ!」
見れば反対側からも鬼が迫ってくる。鬼に囲まれ、シェールは絶叫した。鬼たちが手を振り上げる。
「やだぁ」
そうはいっても、実際はぺしぺしと軽く鞭を身体に当てるだけだ。殆ど痛みはない。
「わーん!」
だが、問題は痛みよりも恐怖だ。大きな鬼ふたりに迫れられ、シェールはその場にしゃがみこんでしまった。流石にかわいそうになって、キール扮する鬼がつんつんとシェールを突っつき、心配そうに顔を覗き込む。
「やー!もうヤダー!」
間近に迫った鬼の面に、シェールは益々泣きだした。たとえ本体がどんな表情をしようと、今日の彼らは常に鬼の形相なのだ。
「シェール」
名前を呼ばれ、シェールは一目散に声の主のほうへと駆け出した。
「げ!」
「ジョージア先生!」
二人は同時に呟く。
「大丈夫。シェール、大丈夫だよ」
屈んで子供の背を擦っているその姿は、やさしさに満ち溢れていて、とても自分たちの知っている教官と同一人物とは思えなかった。
「あいつ、先生の子だったのかな」
「わかんない。でも、どう見てもそうだよね」
先ほどゼインがしていたことを思えば、通りすがりに子供を慰めているように見えなくもない。だが、教官にしがみついて泣いている子供を見る限り、その可能性は限りなく低い。
「二人掛かりで、それも挟み打ちをするとは、今年の鬼は随分と意地が悪い」
低く言って鬼たちを睨みつけるのは、まごうことなく見慣れた教官だった。
「ヤバイ。どうしよう」
「オレたち、殺されるのかな…」
「あっ!鬼だ!!」
すっかり凍りついた鬼たちを、子供たちの声が我に返えさせる。反射的に二人は声のしたほうを振り返る。子供たちがわあっと駆け出す。教官のほうを見ると、声なき声で、行けと命じられた。
「ねえ、テイラー。思ったんだけど、ジョージア先生は俺たちが誰かわかってないんじゃないかな」
「ああ、言われてみればそうだな。ミルズ先生も、知っているのは一部の先生だって言ってたし。知ってたとしても、仮面かぶってるし」
子供を追い掛けながら、小声で会話を交わす。だが、なんとなくまだ安心出来ない。
「でも、もしばれたとしたら」
「何でオレたち鬼なのに、こんなにビビってるんだろう」
「それは先生が本物の鬼だからだよ」
テイラーもキールも、タリウスの指導を受けたことがあった。それどころか、キールに至っては、泣かされたことまである。その恐ろしさは実証済みである。
「ああもう、最悪だぁ」
吐き捨てるようにして言うと、キールは走る速度を上げた。こうなったらヤケだ。街中の子供を捕まえてやろうと思った。そうすれば、教官の子供だけを狙い撃ちにしたわけではないと言うことが出来る。それに気付いたのか、テイラーもまたがむしゃらに走った。
結局、この後ふたりは街中を全力疾走し、子供という子供を打った。途中で何故か大人も追いかけまわしたりと、少々の暴走を見せながら、なんとか任務を果たした。この日、兵舎へ帰った彼らは、これまで課されたどの訓練のときより激しく疲弊していた。
翌日、ゼインは極秘任務を終えた候補生たちを再び執務室に集めた。今日の彼は殊の外上機嫌である。
「昨日はご苦労だったね。町長の覚えもめでたく、君達には労いの言葉をいただいた」
他の候補生がにこやかに教官の話に耳を傾ける中、浮かない顔がふたつ並ぶ。言わずと知れたテイラーとキールである。本来ならば一番褒められるべき人間なのだが、本人たちも含めそのことに気付く者はいない。
「そうそう。今回君達を推薦したジョージア教官には、私も感謝している」
何気なく教官が発した言葉に時が止まった。
「ジョージア先生?」
「ジョージア先生!」
そして、揃って過剰に反応する。
「なんだ、騒々しい」
素頓狂な声に話の腰を折られ、ゼインがふたりをねめつけた。
「人の話は黙って聞く。君達の大好きなジョージア先生はそんなことも教えてくれないのか」
一瞬の沈黙の後、やたらと大きくいいえと返す。すべてを否定したかった。
「例年、鬼の役は私が適当に選んでいるのだが、今年はジョージア教官に決めてもらったのだよ。普段から、君達のことをよくみてくれているからね」
その後も教官の話は続いたが、もはや二人の耳には全く持って入らなかった。
そんな調子だったから、ゼインの執務室を出た後も相変わらずふたりは上の空だった。それ故、反対側から向かってくる足音に気が付いてはいたものの、つい注意を払うのを怠った。
「挨拶はどうした」
すれ違い様に発せられた険のある声に、ふたりは慌てて背筋を伸ばす。目上の者に敬意を払い忘れるなど、ここではあり得ない。
「申し訳ありません!」
「失礼しました!」
反射的に頭を下げながら、テイラーはその声と先ほどから自分の脳裏に浮かんでいる人物とがリンクした。そして、顔を上げると予想通りの人物がそこにはいた。
「まあ良い。大方、昨日張り切り過ぎて疲れたのだろう」
タリウスは溜め息交じりにそう言うと、いくらか表情を和らげた。
「ともかく上手くいったようで、安心した。チビも楽しかったようだしね」
「楽しいって、あの、どう見ても泣いていましたけど」
昨日の様子がありありと思い出される。子供相手に本気を出し、泣かした揚句、なんとそれは教官の子供だった。
「やはりお前たちか」
教官の冷たい声に、しまったとテイラーは息を呑む。彼の隣では、馬鹿とキールが顔を覆った。まんまと嵌められた。
「な、泣かすつもりなんてなかったんです、本当に全然」
「そうです。ただあまりにもすばしっこくて、あの恰好だし、ひとりじゃ敵わなくて、つい。そもそも子供のくせに足が速すぎなんです」
必死に弁明する元鬼のコンビがおかしかった。
「確かに、その点では俺も手を焼いている」
「先生もですか?」
苦笑いする教官に、意外だとばかりにキールが聞き返す。
「鬼ごっこだ、かけっこだと遊んでいるうちに、逃げ脚ばかり速くなってしまってね」
「先生と鬼ごっこすれば、そりゃ…」
うっかりとんでもないことを口走りそうになり、慌ててキールは言葉を切った。
「そりゃ?」
しかし、それをタリウスは逃さない。
「き、鍛えられますよね」
「そりゃあもう」
テイラーの協力により、なんとか事なきを終える。
「そうかもしれないな。しかし、楽しかったというのは本当だ。確かに怖い思いもしたようだが、来年も行きたいと言っていたから」
さあもう下がって良いと、タリウスはその場から立ち去ろうとする。そもそも、昨日の件はあれでもう決着がついている。この上、咎める気は最初からなかった。
「先生、ひとつだけ教えてください」
だが、そんな教官をキールが呼び止める。
「テイラーが今回の役に選ばれたのは、地元出身だからなんとなくわかります。でも、オレは…」
「地元?いや、それは知らなかった」
「じゃあ、どうしてですか?」
タリウスの反応に、ふたりとも不思議そうに教官へ視線を送った。優等生でも何でもない自分たちが、何故抜擢されたのか、さっぱりわからなかった。
「一番ふさわしいと思った、それだけだ」
そう言われても、謎は深まるばかりである。ふたりは互いに顔を見合わせた。
「たとえ結果が出せなくとも、失敗しようとも、投げ出すことなく最後まで努力を怠らない。お前たちのそういうところを、評価した結果だ」
教官の言葉はふたりにとって全く意外なものだった。これまで数え切れないくらい叱られてはきたが、褒められたのは初めてと言って良い。この鬼はただの鬼ではなかった。
「傲慢なのは困るが、もう少し自分に自信を持っても良い」
半ば自分に向けた言葉だった。数日前、初めにゼインへ名簿を見せた時、本当にこれで大丈夫なのか問われた。だが、彼らを指導しながら自身で導き出した結果である。そう易々とは曲げられず、大丈夫ですと言い切った。しかし、その実彼らのことを一番心配していたのは他ならぬタリウスだった。
了

2010/3/1 22:49
【悪夢】 100のお題
暗闇を歩いていると、ふいに背後から肩を掴まれた。咄嗟に振り払おうとするが、そのまま強い力で引きずられてしまう。懸命に身を捩って抵抗した。
気付けば、自分に向かって無数の手が伸びてくる。振り払っても振り払っても、一向に消える気配がない。身体が鉛のように重かった。
このまま訳もわからず滅びていくのだろうか。諦めかけたそのとき、目の前に小さな光が現われる。あたたかで、やさしいその光に、必死で手を伸ばした。
目を開けると、いつもと同じ天井があった。そこで、タリウスは自分が夢をみていたのだとわかる。
「っ!」
突然、今度は現実に腕を引っ張られ、心臓がドキッと鳴った。
「みゃぅ…」
腕を引くと、言葉にならない幼い声が聞こえてきた。
「なんだ、またお前か」
いつの間にか、小さな弟がベッドへ潜り込んで来ていた。掴まるものを失い、シェールはコロンと転がった。
「しょうがないな」
弟を捕獲し、毛布に入れてやる。ここに来たということは、彼もまた悪夢をみたのだろう。夢くらいひとりでみてくれ。そんなことを思った。
「ん?」
弟の柔らかい頬に触れると、人肌のぬくもりが心地よかった。ひょっとしたら、あの光の正体は彼だったのかもしれない。守っているようで、自分のほうこそ守られているのかもしれない。ぼんやりと考えていると、睡魔が襲ってきた。今度はきっと良い夢がみられることだろう。
了
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気付けば、自分に向かって無数の手が伸びてくる。振り払っても振り払っても、一向に消える気配がない。身体が鉛のように重かった。
このまま訳もわからず滅びていくのだろうか。諦めかけたそのとき、目の前に小さな光が現われる。あたたかで、やさしいその光に、必死で手を伸ばした。
目を開けると、いつもと同じ天井があった。そこで、タリウスは自分が夢をみていたのだとわかる。
「っ!」
突然、今度は現実に腕を引っ張られ、心臓がドキッと鳴った。
「みゃぅ…」
腕を引くと、言葉にならない幼い声が聞こえてきた。
「なんだ、またお前か」
いつの間にか、小さな弟がベッドへ潜り込んで来ていた。掴まるものを失い、シェールはコロンと転がった。
「しょうがないな」
弟を捕獲し、毛布に入れてやる。ここに来たということは、彼もまた悪夢をみたのだろう。夢くらいひとりでみてくれ。そんなことを思った。
「ん?」
弟の柔らかい頬に触れると、人肌のぬくもりが心地よかった。ひょっとしたら、あの光の正体は彼だったのかもしれない。守っているようで、自分のほうこそ守られているのかもしれない。ぼんやりと考えていると、睡魔が襲ってきた。今度はきっと良い夢がみられることだろう。
了
