「森林療法・森の癒しってどんなもの?〜上原巌先生を迎えて」
報告

勉強会〜いのちに触れる実践者の立場から〜「森・川とこころ 育つ、育てられる」の第5回目が11月18日日曜日、雪の散らつく寒い夜に行なわれました。
講義をしてくださった上原巌先生はわが国の森林療法研究・実践のパイオニアです。身近な里山を利用した治療・教育、森林がもたらす保養効果、森の中でのカウンセリングなどについて、森林療法の実践例を多く交えたお話をしていただきました。

「森林」の特徴
まず「森林」は、次のような特徴があります。
@さまざまな生命体の集合体、A言語のない世界でやさしい、B何十年何百年という歴史性、C四季の移り変わりやリラックスできる風景、Dゆっくりとした時間の流れ、E音、温度環境、香り、地形変化などがある
高齢者の心身機能低下予防への取り組み

森歩きには比較的費用がかからないため、高齢者の方にも取り入れやすいことから・・
森歩きのプログラム参加で外出の機会を作る
寝たきり・引きこもり予防
心身機能の低下を防ぐ
@筋力低下を防ぐことによる効果(骨粗しょう症の予防・転倒予防)A気分転換による精神機能の低下(鬱など)の予防効果
また認知面での障がいが見られる方(アルツハイマー、脳血管性障害)の方に子ども時代や若い頃の自然体験の知識を活かしてさと山散策にて草花や樹木の説明をしてもらうことで
役割感や
自尊感情が芽生え表情が生き生きしてくる、
認知障がいに症状の緩和や周囲とのコミュニケーション能力がアップ
したとの報告もあるそうです。
このことから施設や病院のリハビリテーションのプログラムの導入への試みも実施されています。
また「神戸シルバーカレッジ」では65歳以上100名以上の方が4〜11月に計34コース192km森林散策を行ない、効果を上げているという事例もあります。
生活習慣病予防・メンタルヘルス効果

メタボリックシンドロームが注目され、国民の死亡原因の1/4が生活習慣病が元になっているといわれ、国をあげて生活習慣病予防に力をいれています。
運動目的に森林プログラムを活用することで血圧正常化や血糖値の低下の効果が実際の数値として現れているとのことです。ある企業では健康保険組合が社員の健康増進を目的として
森林保養施設利用への助成を実施しているところもあるそうです。
都市ビジネスマン対象にした森林療法ワークショップ
企業の保健厚生課が森林療法のワークショップを依頼(費用があまりかからないだろうというのが選択理由だそうです)有給休暇・都市近郊の森林公園を利用することでなるべく多くのサラリーマンに参加してもらうことが可能になりました。
≪プログラムの内容≫
@
ガイドウォーキング・・森の中でどうすごしていいかわからない、森は薄暗い感じがして少し怖い、という参加者もいらっしゃったそうです。最初にガイドと散策するというのはビギナーにとって不安をなくす意味でもとても大切だと思いました。
A
自分の木・お気に入りの木を見つけて一人で過ごしてみる・・これは
北大植物園9月の勉強会「森林療法体験会」でも行いましたね!最初は気恥ずかしいけど結構ハマリます。木と向き合うことで自分と向き合うことになるのですね・・・そのことで自分自身について見えてくることがあります。セルフカウンセリングですね。自己理解が進み、そして他者理解へと向かっていきます。これは不思議ですね。
B
グループワーク・・心がほぐれてきたらシェアリング、分かちあいをします。自分自身を知ることでコミュニケーションがスムーズになる、これ、実感です。
参加者には気分評価表を体験前、体験後に記入してもらいます。とくに「不安感」が減少したと評価したひとが多かったそうです。ああそうかもしれないなあ・・疲れていたり、問題を抱えていると一つの考えに固執しがちになることがあります。自然の中にいると一つしかないとおもってた解決方法や手段も違う抜け道があるかもしれない、抱えていた問題がそんなに深刻ではないのかも知れないと思えてくるから不思議です。
地域住民による森つくり
大変興味深かったお話です。神戸市北区で40年以上放置された4.5haの私有林を施設に寄贈され、地域の人達が協力してボランティアで森を整備していったという事例です。里山整備のボランティアを近所にチラシを配って募集したところ、期待以上のボランティアが集まったというお話です。人海戦術(みんなで列になって)草や藪を踏み固めた散策路つくり、地域高校生によるゴミ拾い、定年退職後の方が健康のために除伐・間伐のために手弁当で赴いたり、オブジェつくりなど様々な人達が様々な目的や思いをもって森つくりを行っているそうです。里山整備ボランティアが多数集まったという現実は「休日やちょっとした時間を利用して自然の中に入りたい、自然環境保護に少しでも役に立ちたい、という潜在的なニーズを感じます。サラリーマンが出勤前に下刈りをしてから仕事に行くなど自分の空いた時間に実施するフレックスタイムボランティア等の工夫も面白く、取り組み全体がとても理想的でなんとも魅力的なお話でした。

私たち手稲さと川探検隊スタッフも手稲山で活動しながら中心部から遠くない場所で休日を利用して様々な目的で過ごす整備された(整備されすぎない)利用しやすい森林があったら素敵だなあ・・と話していたからです。長野県信濃町のとても素敵な事例ですが、町民による
「おもてなし研修会」という取り組みをしているそうです。地元の食材使ってお弁当や、低カロリーおやつを提供し、町ぐるみで訪れた方を「おもてなし」するのです。訪れた方の心も身体も
「もてなす」のです。そして荒れた林や森では人間のこころは癒されません。手入れされた森や林は本当に人の心を安心感で包んでくれます。
10月の勉強会「雑木林体験会」でもお訪ねした、週末になると森に入り
「木こり」になり雑木林の手入れをされている
草苅さんの「手自然」は、
「もてなしの林」です。緩やかな傾斜のフットパスが続き、赤い屋根のログハウスが私たちを受け入れてくれます。草苅さんは、手入れされた林と道を挟んで隣接する手入れしていない林を見比べられるところへ案内してくれます。そうすると一目瞭然なのですね。手入れしていない林は暗く、私たちが分け入っていくには勇気がいるのです。草苅さんが手入れしている林は私たちを穏やかに受け入れてくれるのです。私は苫小牧の林を訪れるといつも「受け入れてくれる」満足感に満ち溢れます。そしていかに自分が「受け入れてもらう」ことに渇望していたか知るのです。私たちはめまぐるしい日常の中で「情報を収集し、情報を発信し、コミュニケーションを上手に取る」ということに過敏になっているような気がします。手入れされた林は穏やかに私たちを受け入れてくれるので安心して自分自身を見つめることが出来るのかもしれません。「手入れ」をすることは林自体を「もてなし」訪れる人を「もてなし」てくれます。そこに見えない「手入れ」をしている人の息遣いを感じるのです。

以下の写真は私たちが訪れたKさんの苫小牧の林です
そして癒しのパワーを秘めている森林は以下の事例にも展開していきます。
視覚障がい・PTSD対象
視覚障がい者を対象に森の散策も行われています。募集は点字のチラシを配布したそうです。ボランティアは地元の高校の生徒達で、視覚障害の方をサポートするための事前研修しっかりと行い、現地についてからの説明も詳しくされます。
視覚障がいの方は様々方法で森を楽しみます。散策しながら木々の葉や花の香りを楽しんだり、あらかじめ「ここはくだり坂になりますよ」など伝えることで、「ここはごつごつして岩が多いですね」など私たちが考えているよりも積極的に地形の変化も楽しまれるそうです。視覚にたよりがちの私たちにとって、木の肌を触ってたしかめたり(熊

の爪あとにおどろいたり!)川の水の音をパイプを使って聴いたり、鹿の糞やおが屑の香りを嗅いだりと
感覚をフルに活用した楽しみ方は新鮮に感じました。

ここでクイズです
視覚障害の方に「この木の高さはどれくらいですか?」と訊かれ、「では測ってみましょう」ということになりました。さて、どのようにして木の高さを測ったのでしょうか??
答え
木を倒して横にした状態で距離を測る
もちろんたくさんの木を切ることはできませんが「なるほど〜

」と思いました。
そして意外にも切り倒した木おが屑を(せっかく作ったコースターより)「いい香り」と喜んで持ち帰るそうです。
シビアな事件、事故などを体験した重度の薬剤抵抗性PTSD児童にCBCL(子ども用の情緒や行動の包括的な質問用紙)を使用した具体的な評価でも森林の受容環境が大きな効果があり、森林療法を行動療法の一部として行っている医療機関もあるそうです(国立天竜病院での研究成果は日本森林学会でも発表され、北海道の植苗病院でも新たな取り組みが始まるようです)。ここでも効果のあるのは「手入れ」をされた明るい森林で、水環境(川・池・湖)もあると更によいということでした。そして最も大切なことは、森の中に安心できる自分の居場所をみつけることだそうです。この事例に関しては
医療・福祉・教育関係者とのコラボが重要になってきます。こころに傷を持っている方のそばに寄り添い、共有、共感しながら森を歩くことの大切さを感じました。医療・福祉に携わっている私にとっては大変興味深いお話でした。
今後の課題とまとめのお話
@「森林療法」と言っても、具体的なニーズのイメージが様々であり、対応する人材育 成・確保が難しい・・・イメージに微妙にズレがあること(特に運動目的と休養目的 では大きく異なる)や対応すべき人材も健康増進、医療・福祉分野、町おこし、保養 ビジネスなど目的により多岐にわたることによる。
A森林環境を整えることが、まず第1歩(放置林では行えない)
B人材育成および魅力的なプログラムづくりが必要
また、企業と森林を結ぶ今後の展望について
企業の理解を図るには森林療法の効果をエビデンスとしてきちんと提示していく必要性についてお話されていました。
CSR(企業の社会的責任)との展開についても触れていました。企業に優秀な人材の確保や定着、能力を最大限引き出すための良好な職場環境には心身の健康が不可欠であり、自己責任だけではなく企業側の努力も必要だということでしょうか。社会貢献としての企業の森づくりも含めて、森林療法はそのツールとして大きな可能性を含んでいるのかもしれないと思いました。ある社長さんから、「社員のメンタルヘルスとして森林保養地に旅行したいが良い保養地を教えて欲しい。但し受入れ態勢が万全で、プログラムが充実していることが条件」と訊かれたそうです。北海道は多様な環境もあって魅力的な受け皿となりますので、受入れ態勢とプログラムの充実で、今後が期待されるでしょうとのことでした。

11月だというのにとても寒い日曜日の夜に多くの方に参加していただきました。また出張先の九州から飛行機でかけつけてくれた上原先生(寒いね〜〜!薄着できちゃった!と笑ってらっしゃいました)ニコニコと穏やかな表情がとても素敵でした。今後の活動への学びとなりました。本当にありがとうございました。
