(無題)  

このアパートって作りが昔風。
大きな玄関を入ると廊下があって、それぞれに1階の部屋のドアがあり、2階に上がる階段もある。
だから、大きな玄関に入っちゃうと外からは中の様子はわかんない。
ちなみに悪徳業者さんを撃退するのは大きな玄関前なの。
大家さんがバイトに行ってる時は大家さんの友人(礼音さんの彼女ね。)が大家さんの代わりをしているの。
だから、大きな玄関を入って、いきなり抱きしめられた時はびっくりしたわ。
「椿薫ちゃん!おめでと〜♪椿薫ちゃん凄いね。よく頑張った☆」
そう言いながら礼音さんがギュっとハグしてくれた。
「あ?ありがとございます…。」
「でも、水臭いじゃないか。どうして受賞のこと黙ってたの?」
私の顔が見える程度に腕を緩めて礼音さんが言う。
「あ〜よくご存じで。」
だーかーらーどういう情報網があるんだろう?
何か情報があるとマスターから常連さんに一斉配信でもされてるのかしら?
「いつまで抱きついてる。」
そう言いながら蒼生さんが私から礼音さんを引きはがす。
蒼生さん、なんかイラついてる?
「おめでとう。椿薫ちゃん。」
そう言って私を見る蒼生さんの目はとっても優しい。
あれ?さっきのは気のせい?
「ありがとうございます。でも、どうして知ってるの?」
「作家の森本さんいるだろ?カフェの常連の。あの人の彼女がモデルって知ってた?その彼女って以前あのカフェでバイトしていたこともあって、今は客としてちょくちょく行ってるから、彼女も椿薫ちゃんのこと知っててね。で、今日俺と一緒の仕事だったの。それで教えてもらったって訳。鷹也には俺が連絡したんだけど…椿薫ちゃん、自分から言いたかった?」
「うう。別に。言うつもりなかったから。」
「え?!なんで?」
礼音さんが驚く。なんで?
「だって…別に報道される訳じゃないし。いずれ本にはなるらしいけど、だからどうするって訳でもないし。あ!もしかして大家さんにも言っちゃった?」
うんと首を縦にふる礼音さん。
「え〜!どうしよー!家賃上げられちゃったら!」
「それはないよ!」
礼音さんと蒼生さんが笑いながら言う。
2人共、夜だから声を押し殺してるけど笑いすぎだよ!
「じゃあ、椿薫ちゃん。後でちゃんとお祝いしよーね。」
そう言って礼音さんは彼女の部屋に行ってしまった。
「さてと…椿にご飯あげなくちゃ。じゃあね蒼生さん。お祝い言いに来てくれてありがと。」
「一緒に行ってもいい?」
「うん?いいよ。」
蒼生さんやっぱなんか含んでるなぁ…。
と思いつつ、一通り椿の世話をしてから、カフェでテイクアウトした賄い飯をレンジで温める。
電子レンジは、友人が新しいのを買ったからいらないっていうのを蒼生さんが貰ってきてくれたの。
お蔭で買わなくてよくなっちゃった♪
「蒼生さんは食べる?半分こする?」
「いや…俺は食べてきたから。」
拾ってきてリフォームしたちゃぶ台の向こうで椿を撫でながら蒼生さんが言う。
なんか気まずい雰囲気のような…落ち着かない。
そんな感じだから、食事もさっさと済ませてしまったら、絶妙なタイミングで蒼生さんがお茶をいれてくれた。
まぁ勝手知ったる私んちだもんね。だけど…
「ねぇ蒼生さん。なんかいつもと雰囲気違くない?疲れてるなら…。」
「別に疲れてないよ。」
ほら!言い方が超素っ気ないんですけど。
やっぱいつもと違うって!

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