「今日は遠いところから来てくれた人を紹介します。私服を着ていると誰だか分からないでしょう。でも垂れをつけたらこの人が誰かみんなもわかるはずです。彼は来月にはこの地を発ち、遠い地へ更なる剣道修行のために旅立とうとしています。次回、彼にいつ会えるか本当に分かりません。今日は彼の動き、動作、彼の剣道の全てを出来るだけ盗むぐらいの気持ちで掛かってください。」
剣道部顧問である彼女(以下、T先生)は息子を剣道部員の前でこう紹介してくれた。
稽古のメニューとしては、まずは校庭を5周ジョギングから。身体を出来るだけ冷やさないうちに剣道場へ帰り、ここからは基本稽古。面打ちにはじまり、いろんなメニューが次々と繰り返される。
私のような素人が見ても、息子の動作は非常に綺麗。確実に打突し、打ちが強い。・・・・・ってところぐらいは私でもなんとか分かる。(まあもうじき高校生なのだから当たり前だけど)
でも息子が基本を大切に稽古を積んできたんだな、というのが私でも分かった。
地稽古もT先生はまんべんなく剣道部員全員が息子に掛かれるように配慮。
そこに、一人の剣道家が剣道場に姿を現した。この地元の剣道家で少年剣道の指導者もされているとのこと。地稽古の最後は、息子がこの剣道家に掛からせていただいた。
さて、時間も押し迫り、どこに行っても最後は「おやおやまたか・・・・」というリクエストが息子に出されるのだが、あえてT先生も今日はリクエスト。
それは、息子VS剣道部員の一本勝負。
T先生が「あえて彼に勝負をしたい人は挙手を!」と言うと全員がいっせいに手を挙げてくれた。
ただ、T先生は息子にも条件を出した。「時間の都合上2分間の一本勝負。ただし、アニエスが引き分けた場合=負け、だからね・・・・」
というわけで、延々繰り返される一本勝負は、息子の全勝で終わった。
そして稽古は終わり、剣道部員の末席に息子が座ろうとすると、あえてT先生は剣道家の先生の隣、部員と対面する場に誘導。
そこで息子。「あっ、いやいや!俺はいいっス。敷居高すぎですよ。カンベンしてください・・・」と言っていたが、あれよあれよという間に整列。
T先生の終わりのことば
「今日の稽古が、いつもとは違い、ピリっとした空気が充満していたのを私は肌で感じました。彼に負けても必死で掛かろうとするみんなの姿、良かったです。さあ、彼のような存在がはたしてみんなの中から誕生するでしょうか?私はみんなが生涯剣道を愛し、彼のような剣道を愛する人になって欲しいと願っています。」
そして、最後に息子にも一言をリクエストされたので、私も何を息子は言うのだろうかと聞くことにした。
(おい!息子よ!ちゃんと喋れるのかよ!?口下手息子!こういうのは大の苦手であることは母もよく知ってるぞよ!れれれれ・・・・になるなよ!)
息子のコメント
「僕は、正直、今でも自分が本当に強いとは思っていません。確かにこれまで、いろんな試合に勝ってきました。しかし、特に団体戦は技がどれほど優れているか、自分一人がどれだけ強いかということよりも、5人、および3人のチームワークが大切だと思います。基本を忘れず、そういう気持ちだけは大切に、これからの稽古や試合に臨んでください。」
そして稽古は終わった
最後に剣道家の先生が息子をまるで抱き上げるように近づいてきてくれた。
あとで、「あの先生と何を話したの?」と聞けば「俺の知らない人だったけど、俺の進路先はなぜかもう知っていたよ。今日はもう少し一緒に俺と地稽古をやっていたかった、と言ってくれた・・・・」
「もう少し一緒に地稽古をやっていたかった・・・」
これは我々には踏み込むことのできない、剣道を愛する者同士だけが分かる、剣を交えながらの会話を続けていたかった、という意味に値するのではないかと私はふと感じた。
今日は本当に皆さんありがとう・・・・
一期一会・・・・身をもって実感した日だった


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