昼
「シバタさん、スピード出し過ぎ。60日の免停ね。3月24日までだけど、23000円払って講習受けたら30日に短縮して来月から乗れますよ。今日お金が無いならまた今度でも講習受けたら30日に短縮して・・・・」だから短縮しても乗れネエんだよ!つい今しがた単車燃やされまして!バイク今日から無いんだよ!!このお兄ちゃんには何の落ち度も無いのだから、そんな事訴えても仕方あるまいと自身をなだめる。「いえ、講習、受けませんから。60日で結構です。」更に待機して証明書の発行。「よしんば、この免停期間中に免許更新が該当するのであれば・・」よしんばどころでは無く、モロ該当するのだ。ややこしい。「よしんばね、免停明けに免許証ここまで引き取りに来れない、おば、都合が悪くなったら、おばおば、」よしんば・おばを過剰に活用したがる係員。何度となく同じ事の説明を繰り返しているであろうその洒脱とも猥雑とも聞えるその語り口は、一人人形芝居の様で楽しげでもある。私も無意味によしんばおばおおばと活用しようかしらんと。
やっと出て今度は保険の解約である。「途中解約されますと、まだ更新期間前とは言えど、全額返金は出来かねます。」「は?ソレ、要するに途中で契約勝手に放棄したからそのキャンセル料てイミでいくらか引かれるんですよね。でもこちらバイク全焼して被害者なんですよ、コレで保険期間スタートしても無いのに返せないって、おかしくないですかあ?」「・・・・取り敢えず、契約された代理店さんに聞いて頂けます?」「え?保険会社で無く、代理店次第という事ですか?」「・・いえ、代理店さんでも、同じ事おっしゃるかと思いますが・・」「わかりました、代理店に聞きます」・・・・「あ、シバタさんね。じゃ、証券こっちに返送してもらって、明日保険料全額口座に返金しますので。」・・・ざまあみろ東京○上!
しかし何より劇的なのは、免許更新前に免停になり明日から免停で、更新した保険がスタートするかと言う前に主役である単車自体が燃やされた、という事だ。いいのか悪いのか、とにかく燃えなければ良かったのは確かだが忙しい事この上無い。「あのバイク、5万で買ったけど、修理とかタイヤにはかなりかけてます、被害届いくら位にしといたらいいすかね?」いきつけバイク屋の社長に相談。「そんなん適当や。まあ犯人捕まったらの話やからなあ、無茶改造に金かけたゆーて、50万欲しかったらそう書きゃええねん。」
夕方
警察からの電話に起こされる。どうやら未明の蛆沸きデカでなく、刑事事件という事で本格デカに担当が替わった様だった。しばしガレージで状況確認をしてから、警察署刑事課にて調書。このおっちゃんデカはモロ○暴に情報横流ししてそな、それともそっちの出か、という風貌にシャベリのデカである。「あと一歩でタンク爆破や。最悪マンション全焼や。これは重大な事件ちゅうことで、ウチの担当になったからには何としてでも犯人を見つけ出したい、で、いくつか聞きたいんやが、前の男とか交友関係で、心当たりはあるか?」「ありませんよ!前の男ゆーたら関西ちゃうし、それより前の奴も心配して朝方電話かけてくれた位なんで、振った奴も振られた奴もおるけども、まずそれはないですよ、そんな恨み方する奴絶対いないです!」「なんや、よーさんおるような言い方やなあ」「よーさんゆうか、ソコソコですよ。ただ恨まれるよな事してないし、そんな陰湿な恨み方する男と付き合った覚えありませんし。」「おネエちゃん、なんや、アレ、ウンソナ、しっとるけ?」「ユンソナでしょ、知ってますよ」「そやそやユンソナ。アレわし好きやねん、アレみたいな感じやの、ユンソナぶさいくにした感じやな、ねーちゃんは。」「はあ・・・。ぶさいくて!チャイニーズとよく間違えられますがそれ言われたん初めてですわ。」「とりあえずその遠距離やった男の名前と生年月日、教えてや」「だからそいつちゃうて!もー嫌やけど私今電話して確認してもええですよ、まずその男何も関係ありません!」「ねーちゃんよー顔見とったらぶさいくなったりきれいなったりするなぁ、そんなぶさいくな顔ばっかしとったらアカンで。」「そりゃこっち単車燃やされてんねんから、ぶさいくにもなりますよってに!」あああ、こんなおちょくり、もうちょっと不幸な被害者ヅラしてシカトすればいいモノを、どうしてこうも逐一、ウマく返してしまうのだろうか。殺伐とした刑事課内で、おっっちゃんデカと私二人だけがコントをしているのだった。笑いをこらえるまわりの部下。
「あの単車、いくらで買うた?」「やー、20万位で買いまして、あと修理やらカスタムやらで50万位にはなったかなぁ・・」「時価7,8万やな。」「ちょっと待って下さいよ、なんやかやで50万すよ!」「被害届の時価ゆうんはな、中古で売ってなんぼになるか位の、いわば査定額や。あんなもん金かけたかしらんけど20万でこーたんなら売ってもせいぜい3,4万や。7万つけてもらえるだけ有り難い思とき」
拘束3時間。何が何でもと息巻いてかかった割には、私の交友関係の線が薄いとなるともう何もする気の無い刑事課であった。「だからね、結局付近住民なんすよ、聞き込みとかしてくれるんですか?」「それはなあ・・あんたから今度マンションの住人に聞いてみ。ウチもなあ、こうやって毎日ひったくりやら変死やらでなあ・・」放火はココでは軽度の犯罪らしかった。みんなこの辺じゃ知らん奴の家燃やしても捕まんないぜ!燃やせ燃やせ!
「それじゃ、失礼しますけど刑事さん、御名前お伺いしても?」「いやあ、名乗るウ程の者でも御座いませんが・・・」・・・・デカは任侠物の見過ぎらしい。
その晩
サテ明日も消防行ってなんやかんやで・・。眠いのにやはり眠れず取り敢えずぐったりしている23時。自宅の電話が鳴る。とれば久々の母だった。「どしたの?」聞くなり母親は急いでこっちに戻れと泣いていた。
25日
「何故自分はこんな目に」今更そんな愚問を言い出す程幼稚ではないし、まだ10代だったとしてもそんな恥ずかしい事言うものか。今までも大層散々あったのだから、ちょっと最近立て込み過ぎなだけで、この程度ならジャブだった。ただ、とにかくイラっときていた。
今なら私の余裕の無さも、この状況を理由にして済ませられると思った。周りへの八つ当たりとイラつきを全て都合良く状況のせいにして。決して、そのイラつきが改善される事は無いにしても。
何、勝手な事して寝とんねん。ふざけんな。ICUのベッドで何か言葉を発しようとするのか、それとも朦朧と夢を見るのか、全身拘束された状態の父を見下ろし私はひとりごちている。泥酔したあげくに頭を強打してのくも膜下出血との診断だった。らも話なんてもううんざり。